明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

舞香のその後

 数日後。

 それは、春の終わりを告げる午後だった。

 榊原家では親族会議が開かれた。

 普段は使用人すら近づけぬ書院の間に、親類縁者が静かに集められる。低く交わされる声、重なる沈黙。

 重苦しい空気の中で、隆之は一同に向かって低く言い渡した。

「……舞香を、しばらく遠方の知人の寺に預ける。都での生活は……難しいだろう」

 その場にいた舞香は、信じられないというように父を見上げた。

「……お父様? それは、冗談……でしょう?」

 だが隆之の顔に、冗談の色は微塵もなかった。

「百合絵がこれまでしてきたことを思えば、当然の処置だ。……これ以上、家の名を貶めるわけにはいかない」

 その言葉が決定打となった。

「いや……いやっ……!」

 舞香は立ち上がり、声にならぬ悲鳴を上げて、畳に崩れ落ちた。かつての傲慢さは影も形もなく、涙と嗚咽にくれながら、ただその場に座り込んで震えていた。

 その姿を見ながらも、誰ひとり慰めの言葉をかける者はいなかった。
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