明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
藤堂様、お客様です
◇
扉の向こうから、控えめにノックの音が響いた。
「……どうぞ」
将吾の声に応じて、静かに扉が開かれる。
入ってきたのは、深い紺の羽織に、仙台平の袴を着けた輝明だった。
将吾の父の弟にして、藤堂家の政務を陰から支える穏やかな老紳士。その姿には、普段から気品と落ち着きが漂っている。
「叔父上……」
将吾が軽く目を上げると、輝明はいつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、室内を見回す。
「相変わらず、飾り気のない部屋だね。君らしいと言えば、君らしい」
「ご要件をどうぞ」
無駄を省く将吾の言い方に、輝明は少し笑って応接椅子に腰を下ろした。
「そう堅くなるな。……今日はね、少し、玲子さんのことで話をしに来た」
将吾の指先がぴくりと動いた。それを視線で追いながら、輝明は言葉を選ぶように口を開いた。
「花嫁候補として、住まわせているようだね」
「……はい」
「彼女が君にとって、特別な存在であることは……先程、庭で少し挨拶を交わしただけでも、伝わってきたよ。真っ直ぐな眼差しをしていた。あれは、君が花嫁にと望んだ理由も分かる気がする」
将吾は黙したまま、ただ視線だけを輝明へ向ける。
扉の向こうから、控えめにノックの音が響いた。
「……どうぞ」
将吾の声に応じて、静かに扉が開かれる。
入ってきたのは、深い紺の羽織に、仙台平の袴を着けた輝明だった。
将吾の父の弟にして、藤堂家の政務を陰から支える穏やかな老紳士。その姿には、普段から気品と落ち着きが漂っている。
「叔父上……」
将吾が軽く目を上げると、輝明はいつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、室内を見回す。
「相変わらず、飾り気のない部屋だね。君らしいと言えば、君らしい」
「ご要件をどうぞ」
無駄を省く将吾の言い方に、輝明は少し笑って応接椅子に腰を下ろした。
「そう堅くなるな。……今日はね、少し、玲子さんのことで話をしに来た」
将吾の指先がぴくりと動いた。それを視線で追いながら、輝明は言葉を選ぶように口を開いた。
「花嫁候補として、住まわせているようだね」
「……はい」
「彼女が君にとって、特別な存在であることは……先程、庭で少し挨拶を交わしただけでも、伝わってきたよ。真っ直ぐな眼差しをしていた。あれは、君が花嫁にと望んだ理由も分かる気がする」
将吾は黙したまま、ただ視線だけを輝明へ向ける。