明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、見つかります
将吾は、玲子の姿を探して庭園に足を踏み入れた。
ひんやりとした夜風が、月光を帯びた木々を揺らし、葉擦れの音が静かに耳を撫でる。
……いた。
奥まった東屋の方から、誰かの話し声が聞こえてくる。玲子のものだ。
だが、その声に対して返す声はなく、彼女は一人で話しているように見えた。いや、まるで「誰か」と語り合っているように。
将吾は、足音を忍ばせながら紫陽花の茂みに身を隠し、息をひそめて聞き耳をたてた。
「ん……?」
耳に飛び込んできたその名前に、将吾の眉が動く。
一将。
確かに自分が幼い頃に亡くなった祖父の名だ。
だが、なぜ、玲子がその名を知っているのか?
何より、今の口ぶりではまるで会話をしているかのようではないか。
玲子は膝をついたまま、誰もいない空間に語りかけていた。
その所作には、確かな距離感があった。
まるで、目の前に誰かが“在る”と信じて疑っていないような。
「将吾様の命が助かったのが、何よりも良い事なのですから、恩返しなど不要です」
玲子の声が、風に乗ってはっきりと届いた。
やはり、玲子は自分を助けようとして、手を叩きグラスを弾いたのだ。
あの一撃は気を引くための行動ではなかった。
だが、やはり疑問は残る。
それはあのグラスに毒が入っていたことを、彼女はどうやって知ったのか。
会場の端にいた彼女に、それを見抜ける機会もなかったはずだ。
ならば……。
そのとき、不意に小枝を踏み、パキッと乾いた音が響いた。
ひんやりとした夜風が、月光を帯びた木々を揺らし、葉擦れの音が静かに耳を撫でる。
……いた。
奥まった東屋の方から、誰かの話し声が聞こえてくる。玲子のものだ。
だが、その声に対して返す声はなく、彼女は一人で話しているように見えた。いや、まるで「誰か」と語り合っているように。
将吾は、足音を忍ばせながら紫陽花の茂みに身を隠し、息をひそめて聞き耳をたてた。
「ん……?」
耳に飛び込んできたその名前に、将吾の眉が動く。
一将。
確かに自分が幼い頃に亡くなった祖父の名だ。
だが、なぜ、玲子がその名を知っているのか?
何より、今の口ぶりではまるで会話をしているかのようではないか。
玲子は膝をついたまま、誰もいない空間に語りかけていた。
その所作には、確かな距離感があった。
まるで、目の前に誰かが“在る”と信じて疑っていないような。
「将吾様の命が助かったのが、何よりも良い事なのですから、恩返しなど不要です」
玲子の声が、風に乗ってはっきりと届いた。
やはり、玲子は自分を助けようとして、手を叩きグラスを弾いたのだ。
あの一撃は気を引くための行動ではなかった。
だが、やはり疑問は残る。
それはあのグラスに毒が入っていたことを、彼女はどうやって知ったのか。
会場の端にいた彼女に、それを見抜ける機会もなかったはずだ。
ならば……。
そのとき、不意に小枝を踏み、パキッと乾いた音が響いた。