明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、顔が赤いです

 菓子を口にしてから、しばらくのち。

 玲子は離れの一室で、静かに文机に向かっていた。
 けれど……。

(お菓子を頂いてから……なんだか、熱い……?)

 掌に触れる紙の感触が、やけに敏感に感じられる。
 胸の奥で、心臓が小刻みに跳ねるように高鳴っていた。

 額に浮かぶ汗をそっと拭ったとき、控えめなノックの音が響いた。

「玲子、入るぞ」

 将吾の声に、はっと我に返る。
 けれど、返事をする声がうまく出なかった。

 戸を開けて入ってきた将吾は、そんな玲子の様子に眉をひそめる。

「……顔が赤いな。体調でも悪いのか?」

 将吾は、瞬時に何かがおかしいと察し、近づこうとした。その将吾へ玲子はとっさに手を伸ばす。
 触れたかったわけではない。
 ただ、止めようとした、はずなのに……。

 しかしその指先は、将吾の袖をきゅっと掴んでいた。

(だめ……なんで、こんな……)

 玲子は必死に理性を立て直そうとする。
 だが、胸の奥でわきあがる奇妙な熱は、理性を押し流そうとしていた。

 将吾も、その異変に気づく。

「玲子……?」

 袖を掴む玲子の手が、微かに震えていた。
 いつも凛とした玲子が、縋るように潤んだ瞳で見上げてくる。

 
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