明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、頼まれます
深夜。
玲子がゆっくりと瞼を開けると、部屋の中には月明かりが静かに差し込んでいた。
将吾はベッドの縁にうつ伏し、眠っている。その右手は、玲子の手をしっかりと握ったままだ。
優しく、けれど決して離すまいとするような力強さに、玲子の胸にじんわりと温もりが広がった。
その時。
ふわりと、空気が揺れる。どこからともなく気配がした。
「……一将様」
玲子が振り返ると、そこにはお馴染みの袴姿。けれど、どこか真顔の一将が、静かに立っていた。
『昼間、輝明が来ていたな』
玲子は一瞬驚いた顔をし、それから少しだけ伏し目がちに頷いた。
「……はい。庭で少し、お話を……。将吾様を訪ねてこられたのだと思います」
一将は腕を組み、空を仰ぐようにして言った。
『あれが、拙者の三男じゃ。小さい頃はおとなしい子でな。だが、年を重ねるにつれ、我が子のはずなのに、どこか、あいつの心の奥は、よく見えんかった』
「……見えない、心……ですか?」
玲子がそっと訊ね返すと、一将は視線を彼女に戻し、小さく頷いた。
『人は、長く付き合っていても、本性が見えぬ奴もいる。言葉では愛想を振りまいても、目の奥は笑っておらん。そんな奴……が、拙者の息子とはな……』
「一将様……」
玲子がゆっくりと瞼を開けると、部屋の中には月明かりが静かに差し込んでいた。
将吾はベッドの縁にうつ伏し、眠っている。その右手は、玲子の手をしっかりと握ったままだ。
優しく、けれど決して離すまいとするような力強さに、玲子の胸にじんわりと温もりが広がった。
その時。
ふわりと、空気が揺れる。どこからともなく気配がした。
「……一将様」
玲子が振り返ると、そこにはお馴染みの袴姿。けれど、どこか真顔の一将が、静かに立っていた。
『昼間、輝明が来ていたな』
玲子は一瞬驚いた顔をし、それから少しだけ伏し目がちに頷いた。
「……はい。庭で少し、お話を……。将吾様を訪ねてこられたのだと思います」
一将は腕を組み、空を仰ぐようにして言った。
『あれが、拙者の三男じゃ。小さい頃はおとなしい子でな。だが、年を重ねるにつれ、我が子のはずなのに、どこか、あいつの心の奥は、よく見えんかった』
「……見えない、心……ですか?」
玲子がそっと訊ね返すと、一将は視線を彼女に戻し、小さく頷いた。
『人は、長く付き合っていても、本性が見えぬ奴もいる。言葉では愛想を振りまいても、目の奥は笑っておらん。そんな奴……が、拙者の息子とはな……』
「一将様……」