明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、疑念が広がります

その夜、自室に戻った玲子は一人、机に文箱を広げていた。

 灯火の下に置かれた一枚の紙。
 一将が服用していた薬草の一覧表。その端に、かすかに残された鉛筆の走り書き……。

 ”夜用の麻黄、念のため分量を倍に”

 その一行が、玲子の胸に引っかかって離れない。
 玲子はもう一度、漢方の本を広げる。

「麻黄……風邪の初期や咳止めに使われる生薬だと書いている。だけど、興奮作用がある薬を夜に、しかも倍量……?」

 頭の中で、尚文の言葉がよみがえる。

 ”うちの輝明叔父さんが、薬草や毒草の本を集めていた。子どもの頃、家の書斎で漢方医学って書かれた本を見せられたこともある。”

(まさか……)

 震える指先で紙をそっと撫でながら、玲子はふと天井を見上げた。

「一将様……やっぱり、何かおかしいです。麻黄は興奮作用があるはず。眠れない夜に飲むなんて……」

『よく気づいたな、玲子殿』

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