明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様の守りたいもの

 帰りの馬車の中、玲子は膝の上に置いた帳面の写しを、じっと見つめていた。
 小さな揺れに合わせて、車体が時折きしむ音を立てる。

 向かいの席に座る将吾は、そんな彼女の様子へ心配そうに声を掛けた。

「……大丈夫か?」

 不意に落ち着いた声が響く。
 玲子は目を瞬き、ゆっくりと顔を上げた。

「……正直に言えば、怖いです。でも……知ってしまった以上、目を逸らしてはいけないと思いました」

 将吾は言葉を発さず、静かにうなずいた。

「……わたしは一将様から、お聞きしたことを確かめさせて頂きました。それを、確かめることで、将吾様や尚文様に再び危険が及ばないようにするためでした。でも……まさか……」

 そう言いかけて、玲子は唇を噛む。けれど、その瞳には迷いのない光が宿っていた。

 その時だった。

 ふわりと風が吹き抜けたような気配とともに、玲子の肩のそばに、袴姿の一将が現れた。
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