明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、証拠です

 静まり返った夜の書斎には、将吾が一人、灯火の下で書類に目を通していた。外では虫の音が細く響き、季節の変わり目を告げている。
 扉の向こうから、かすかな気配を感じ、将吾は視線をあげた。
 すると、コンコンっと控えめな音がする。

「将吾様……よろしいでしょうか?」

 玲子の声だった。

「……入ってくれ」

 将吾がそう言うと、玲子はそっと扉を開け、胸元で何かを抱えるようにして部屋に入った。
 いつもより少しだけ、背筋が張っているように見える。

「こんな夜更けに、どうした」

「お話ししたいことが、ございます」

 テーブルを挟んだ将吾の正面に腰を下ろした玲子は、懐から一束の紙を取り出した。
 書き写された記録。
 筆跡の照合。
 菊屋薬舗の帳簿の写し。

「これは……?」

「すべて、わたくしが整理しました。藤堂輝明様が、一将様の処方を……意図的に変えていたという、確かな証拠です」

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