明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、貝になります

 「一体……何者だ?貴様の言う、一将とは誰のことか!?」

「そ、それは……」

 幽霊が見えるなどと、口にするのは、自分にとって良い結果にならないと、これまでの体験から知っている。
「噓つき」や「気持ち悪い」「変人」など、浴びせられる言葉は酷い物ばかりだ。

 固く口を引き結び、うつむく玲子へ、将吾は低い声で凄む。
 
「早く言え!」 

『この虚け者め!』

 あまりの物言いに、将吾に向ってゲンコツを振り下ろす一将だったが、幽霊故にするりと抜けるだけで、手ごたえがない。
 一将は苦々しい顔をして、ため息を吐いた。

『はーっ! 女性相手に、ましてや命の恩人に対して、なんたることか。まったく、我が孫ながら口惜しい。玲子殿、将吾に貴様の祖父に頼まれてござると申してやれ』

 言ったところで、将吾に信じて貰えるのだろうかと、判断がつかず、玲子は口を閉ざしたまま、うつむいていた。
 頑なな態度の玲子に将吾は焦る。

「このままだんまりを決め込むなら、毒を仕込んだのは、貴様の仕業だと判断するぞ!」
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