明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、婚約です。
その日、藤堂家の本邸に、重々しい空気が流れていた。
座敷の中央には、将吾と玲子が正座し、その向かいに父・将輝と母・志乃が控えている。畳の上には、白木の盆に乗せられた祝いの水引包み。窓からはやわらかな春の日差しが差し込み、室内を静かに照らしていた。
志乃は、玲子の方を見つめると、そっと目を細めた。
「緊張なさっているのね。でも、それもよいわ。誠実さが伝わってまいります」
玲子は、はっとして頭を下げた。
「……はい。身に余るお言葉、ありがとうございます」
志乃の言葉には、母としてのやわらかさと、藤堂家の人間としての節度が同居していた。
一方、父・将輝の表情は相変わらず硬い。
だがその目には、以前のような冷たい距離ではなく、試すような、見極めるようなまなざしがあった。
「藤堂の家に入るということは、ただ“夫婦”になるということではない。この名の下で背負う責務もある。それを覚悟の上で、来ると言うのか?」
玲子は顔を上げた。視線は揺るがず、静かにまっすぐだった。
「はい。わたくしは、将吾様の隣に立ちたいと願いました。そのことが、この家に対しても向き合うということなら……覚悟の上でございます」
その返答に、将輝はしばし無言だった。
座敷の中央には、将吾と玲子が正座し、その向かいに父・将輝と母・志乃が控えている。畳の上には、白木の盆に乗せられた祝いの水引包み。窓からはやわらかな春の日差しが差し込み、室内を静かに照らしていた。
志乃は、玲子の方を見つめると、そっと目を細めた。
「緊張なさっているのね。でも、それもよいわ。誠実さが伝わってまいります」
玲子は、はっとして頭を下げた。
「……はい。身に余るお言葉、ありがとうございます」
志乃の言葉には、母としてのやわらかさと、藤堂家の人間としての節度が同居していた。
一方、父・将輝の表情は相変わらず硬い。
だがその目には、以前のような冷たい距離ではなく、試すような、見極めるようなまなざしがあった。
「藤堂の家に入るということは、ただ“夫婦”になるということではない。この名の下で背負う責務もある。それを覚悟の上で、来ると言うのか?」
玲子は顔を上げた。視線は揺るがず、静かにまっすぐだった。
「はい。わたくしは、将吾様の隣に立ちたいと願いました。そのことが、この家に対しても向き合うということなら……覚悟の上でございます」
その返答に、将輝はしばし無言だった。