明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、着物が出来上がりました

 陽差しが柔らかく射し込む午後、離れの部屋に、玲子が大切そうに風呂敷に包んだ三つの贈り物を並べていた。

(ようやく、あのときの約束を果たせます……)

 それは、藤堂家に来て間もない頃、玲子が三人に交わしたささやかな誓いだった。

「いつか、わたくしの手で羽織と着物を仕立てます」
 そう告げた日のことが、今でもはっきりと思い出せる。

 将吾、尚文、そして、一将。
 それぞれの体格を測ってから幾月。日々の合間に、少しずつ針を進めていた。

 扉の外に気配がして、将吾と尚文が現れる。

「玲子君、何かあったのかい?」

 尚文が不思議そうに問いかけ、将吾は玲子の表情を見てすぐに察したように、静かに口を閉じた。

 玲子は立ち上がり、丁寧に頭を下げる。

「お二人とも……本日は、以前お約束していた品をお渡ししたくて。お仕立てが、ようやく整いました」

 将吾がわずかに目を見開く。

「……出来上がったのか」

「はい。わたくしなりの、感謝のかたちです」

 玲子はそう言って、一枚ずつ包みを開いた。

 最初に差し出したのは、将吾の羽織と着物。
 落ち着いた藍鼠の地に、黒の細縞が走る端正な一枚。裏地には、桜の刺繍を一輪だけ添えた。

「将吾様には、藤堂の名を背負う強さと、春のような優しさがあると……思っています」

 将吾は少しだけ目を伏せ、そして短く呟いた。

「……ありがとう。君の手で縫われたものなら、着ている間、身も心も癒されるだろう」
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