明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

藤堂様、信じます

 兄のような口調で将吾をたしなめる尚文。柔らかく、けれど言うべきことはきちんと言うその言葉に、場の空気が少し和らいだ。
 そして、いつの間にか再び姿を現していた幽霊の一将は、尚文の横でウンウンと頷いている。

『どうにか、尚文が来てくれて良かったようだな』

 この場に現れたのが偶然だったのか、それとも一将が呼び込んだのか……玲子にはわからなかった。
 けれど、視界に一将の姿を認めただけで、胸の奥がふっと軽くなる。

『まったく、将吾がこんなにも融通の利かぬ堅物になってしまっていたとは……拙者の不徳の致すところ。玲子殿、誠にかたじけない』

 一将の謝罪に、玲子は「大丈夫です」の気持ちを込めて、そっと頷いた。
 その玲子の肩に、尚文が自分の上着をそっと掛ける。
 労るような、優しい手つきだった。

「もう大丈夫だよ。怖い思いをさせてしまって、すまなかったね」

「いえ……お気遣い、ありがとうございます」

 ふたりの間に、静かなぬくもりが流れる。
 
「お優しいのですね……」

 玲子が小さな声でつぶやくと、尚文は首を横に振った。

「いや、そういうわけじゃない。ただ……困っている人を放っておくのは、性分に合わないんだ」

 玲子は少し目を丸くしてから、はにかむようにうつむいた。

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