明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
藤堂様、ミエテマセン
尚文は顎に手を添え、「うーん」と小さく唸った。
そして、何かに思い至ったように、玲子の方へ顔を向ける。
「確か、ご令嬢は榊原家の方だったと記憶しているが……」
「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくし、榊原玲子と申します」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。名前を確かめたかっただけだから」
尚文は笑って言い、ふっと声の調子を落とす。
「たしか、榊原家の現当主は議員さんだよね。でも、先代は神職系の家柄で爵位を受けたと聞いている」
「はい」
「……もしかして、“視える人”?」
玲子の表情がこわばる。
これまで“視える”ことを口にして、良い思いをしたことなどなかった。
けれど、ここまで訊かれてしまえば、もう隠すことはできない。
玲子は小さく息を吸い、ギュッと手を握りしめた。
「……はい。わたくしには、この世ならざるものが視えてしまうのです……。今も、おふたりの後ろに一将様がいらっしゃいます」
その言葉に、尚文と将吾はバッと反射的に後ろを振り向いた。
当の一将は、腕を組んで偉そうに胸を張っている。
だが、ふたりの目には植木しか映らない。
そして、何かに思い至ったように、玲子の方へ顔を向ける。
「確か、ご令嬢は榊原家の方だったと記憶しているが……」
「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくし、榊原玲子と申します」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。名前を確かめたかっただけだから」
尚文は笑って言い、ふっと声の調子を落とす。
「たしか、榊原家の現当主は議員さんだよね。でも、先代は神職系の家柄で爵位を受けたと聞いている」
「はい」
「……もしかして、“視える人”?」
玲子の表情がこわばる。
これまで“視える”ことを口にして、良い思いをしたことなどなかった。
けれど、ここまで訊かれてしまえば、もう隠すことはできない。
玲子は小さく息を吸い、ギュッと手を握りしめた。
「……はい。わたくしには、この世ならざるものが視えてしまうのです……。今も、おふたりの後ろに一将様がいらっしゃいます」
その言葉に、尚文と将吾はバッと反射的に後ろを振り向いた。
当の一将は、腕を組んで偉そうに胸を張っている。
だが、ふたりの目には植木しか映らない。