明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

侍幽霊と視える令嬢

時は、明治38年。
文明開化から月日が流れ、日露戦争で勝利した日本は好景気に沸いていた。
 ここ帝国ホテルの朱雀の間では、舞踏会が開かれ、華やかなフォーマルドレスに身を包んだ淑女たちが噂話に花を咲かせている。

「あら、百合絵様。珍しいですわね。玲子様もお連れになったの?」

知り合いの婦人に声をかけられた榊原百合絵は、如何にも困り果てたように眉尻を下げた。

「そうなの。(わたくし)も連れて来るのは……でも、どうしてもって聞かなくて……。玲子は我が儘で困りますわ」

流行りのバッスルスタイルドレスに身を包み、ご自慢の扇で口元を隠しながら、百合絵は血の繋がらない娘の玲子へ、侮蔑の視線を送る。
 
 そして、百合絵の実の娘である舞香もうなずいた。

「お母様のせいではございませんわ」

娘からの同意に、百合絵はわざとらしくため息をつきながら、こう言った。

「血が繋がらないとはいえ、一応娘なのに、玲子は何を考えているのか知れなくて……、(わたくし)も困っておりますの」

一同の視線は、壁際に居る玲子へと集まる。

「あら、今もぼんやりしていらっしゃるわ」

「ふしだらな母親のように、男性を物色しているのかも?  まったく恥ずかしいわ」

「そうね。血は争えないって言いますものね」

 ご婦人たちは、ちらりと玲子の方を見ては、クスクスと嘲るように笑う。

 
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