明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、頭の中が大忙しです

 将吾は、納得と諦めが入り混じったような表情で、静かに目を細めた。

「……疑って申し訳ない。俺には見えないが、祖父の一将が玲子殿に頼んだというのが事実だと、そう信じよう」

 幽霊の存在など、信じがたい話を信じてもらえた。
 その一言に、玲子はほっと胸を撫で下ろし、ふわりと表情を和らげた。

「ありがとうございます」

 玲子の花が綻んだような笑顔に、将吾と尚文、ふたりの視線は強く引きつけられ、心にじんわりと何かが沁み込む。
 すると、将吾の大きな手がそっと伸び、その柔らかな髪に優しく触れた。

「乱暴にして、すまなかった。……腕の痛みはないか?」

 そう言いながら、乱れた髪を優しく撫でつける。
 久しく誰かに頭を撫でられることなど無かった玲子は、不意の優しさに戸惑い、頬に熱を帯びていくのを感じていた。

「だ、大丈夫です……」

「そうか。それなら良かった」

 普段はきりっと引き締まっている将吾の目元が、優しく弧を描く。
 その手が玲子の髪から離れたとき、ふたりの間を風が静かに通り抜けた。

「将吾もちゃんと反省したようだし、玲子君の疑いは晴れたってことでいいよな」

  尚文が場を和ませるように言う。

「ああ。……問題は、誰がグラスに毒を盛ったのか……」
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