明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、𠮟責されます
「入れ」
父・榊原隆之の低い声が障子越しに聞こえ、玲子はごくりと唾を飲み込んだ。
「失礼いたします」
襖を開けると、十畳ほどの部屋の中央に置かれた一枚板の座卓。その向こうに、隆之が傲然と腰を下ろしている。
「どうして呼ばれたか、わかっているのか」
「……昨日の舞踏会の件でしょうか」
玲子の答えに、隆之は座卓をバンッと叩きつけ、勢いよく立ち上がった。
「そうだ。藤堂の子息の気を引こうと、みっともない真似をしたらしいな!」
怒鳴りながら大股で近づいてくる隆之に、玲子の体がすくむ。
「い、いえ。決して、そのような気持ちでは……」
「まったく、親に恥をかかせおって。この親不孝者が!」
「も、申し訳ございません……でも、やましい気持ちは本当に……」
玲子が額を畳に擦りつけるようにして謝ると、隆之は玲子の髪を鷲掴みにし、顔を無理やり上げさせた。
「では、あれは何のつもりだ! 男に媚びるような真似をして、藤堂に取り入ろうとでも思ったか!」
「それは……」
玲子の脳裏に、過去の出来事がよぎる。
かつて幽霊が見えると話したとき、隆之は「気が触れたのか」と激怒し、折檻されたのだ。あの時の恐怖と痛みが蘇り、声が出ない。
答えを口にできない玲子に、隆之の苛立ちは頂点に達し、髪を掴む手にさらに力がこもる。
「やはり言えぬような不埒な気持ちで近づいたのだな! 母親に似て男を追うみっともない女め。この恥さらしがっ!」
バシン、と乾いた音が部屋に響き、玲子の頬に赤い手形がくっきりと浮かんだ。
父・榊原隆之の低い声が障子越しに聞こえ、玲子はごくりと唾を飲み込んだ。
「失礼いたします」
襖を開けると、十畳ほどの部屋の中央に置かれた一枚板の座卓。その向こうに、隆之が傲然と腰を下ろしている。
「どうして呼ばれたか、わかっているのか」
「……昨日の舞踏会の件でしょうか」
玲子の答えに、隆之は座卓をバンッと叩きつけ、勢いよく立ち上がった。
「そうだ。藤堂の子息の気を引こうと、みっともない真似をしたらしいな!」
怒鳴りながら大股で近づいてくる隆之に、玲子の体がすくむ。
「い、いえ。決して、そのような気持ちでは……」
「まったく、親に恥をかかせおって。この親不孝者が!」
「も、申し訳ございません……でも、やましい気持ちは本当に……」
玲子が額を畳に擦りつけるようにして謝ると、隆之は玲子の髪を鷲掴みにし、顔を無理やり上げさせた。
「では、あれは何のつもりだ! 男に媚びるような真似をして、藤堂に取り入ろうとでも思ったか!」
「それは……」
玲子の脳裏に、過去の出来事がよぎる。
かつて幽霊が見えると話したとき、隆之は「気が触れたのか」と激怒し、折檻されたのだ。あの時の恐怖と痛みが蘇り、声が出ない。
答えを口にできない玲子に、隆之の苛立ちは頂点に達し、髪を掴む手にさらに力がこもる。
「やはり言えぬような不埒な気持ちで近づいたのだな! 母親に似て男を追うみっともない女め。この恥さらしがっ!」
バシン、と乾いた音が部屋に響き、玲子の頬に赤い手形がくっきりと浮かんだ。