明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、松林屋へ
屋根付きの大きな棟門をくぐり、石畳を一歩一歩、慎重に踏みしめる。
左手には立派な松と青紅葉、右手には紫の藤が咲き誇っていた。
重厚な門構えに、手入れの行き届いた庭。
その佇まいからは、松林屋の繁栄がにじみ出ているようだった。
気後れしながらも、玲子は表玄関の引き戸に手をかける。
「ごめんくださいませ。榊原です。大旦那様がお呼びと伺いまして、参りました」
思い返してみても、松林屋の大旦那様と直接言葉を交わしたことはあっても、こうしてわざわざ母屋へ呼ばれたのは初めてのことだった。
年配のお手伝いさんに案内されながら、玲子は磨き上げられた廊下を進む。通されたのは八畳ほどの部屋で、壁には西洋画が額装され、床の間には花菖蒲が涼やかに生けられていた。
玲子は座卓の前の座布団にそっと腰を下ろす。
すると、その時だった。床の間の影から、小さな顔がひょっこりと現れた。
まだあどけなさが残る、十歳前後の少女の幽霊だった。
「こんにちは」
玲子が優しく声をかけると、少女の幽霊はキョトンと目を丸くし、すぐににぱっと嬉しそうに笑った。
『お姉さん、お話してくれるの?』
「わたくしでよければ」
左手には立派な松と青紅葉、右手には紫の藤が咲き誇っていた。
重厚な門構えに、手入れの行き届いた庭。
その佇まいからは、松林屋の繁栄がにじみ出ているようだった。
気後れしながらも、玲子は表玄関の引き戸に手をかける。
「ごめんくださいませ。榊原です。大旦那様がお呼びと伺いまして、参りました」
思い返してみても、松林屋の大旦那様と直接言葉を交わしたことはあっても、こうしてわざわざ母屋へ呼ばれたのは初めてのことだった。
年配のお手伝いさんに案内されながら、玲子は磨き上げられた廊下を進む。通されたのは八畳ほどの部屋で、壁には西洋画が額装され、床の間には花菖蒲が涼やかに生けられていた。
玲子は座卓の前の座布団にそっと腰を下ろす。
すると、その時だった。床の間の影から、小さな顔がひょっこりと現れた。
まだあどけなさが残る、十歳前後の少女の幽霊だった。
「こんにちは」
玲子が優しく声をかけると、少女の幽霊はキョトンと目を丸くし、すぐににぱっと嬉しそうに笑った。
『お姉さん、お話してくれるの?』
「わたくしでよければ」