明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ！～

玲子様、キケンです

　ピタリと襖が閉じられ、吉壱は上座に腰を下ろした。長年商売をしてきた者らしい、好々爺のような柔和な笑みを浮かべている。

「玲子嬢、お久しゅうございますな」　

「吉壱様、お久しぶりでございます」

　少女の幽霊が言っていた言葉が玲子の脳裏をよぎる。逃げ出したい気持ちがこみ上げるが、仕立ての仕事をもらっている負い目があり、軽々に席を立つわけにはいかなかった。そもそも、その話が自分のことを指しているかも定かではないのだから。　

「少し見ぬ間に、すっかり大人びてきた。針の腕前もなかなかだと、茂助が褒めておったぞ」

「恐れ入ります。今後も精進いたします」

　時折、吉壱の目が値踏みするように細められ、嫌な視線が玲子を撫でた。

「玲子嬢、針仕事は見事だが、他に何ができるのかな？　少し痩せておるようだが、寝ついているわけではなさそうじゃな」

　何を問われているのか分からず、玲子は小首を傾げる。