明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、幽霊に警戒されます

 その頃、玲子は部屋の端に居る、侍の幽霊へと近づいていた。
 玲子の中では、ひと口に幽霊と言っても 《《悪しきモノ》》 と 《《そうでないモノ》》 が居るという認識だ。そして、目の前の侍の幽霊は明らかに 《《そうでないモノ》》。むしろどこか、ひどく寂しげな気配をまとっていた。

(……この人、誰にも気づいてもらえなくて、ずっとあそこに立っていらっしゃるのね)

 玲子は胸の奥に、じんわりと共感を覚えていた。  
榊原家でハズレ者として扱われてきた玲子にとって、誰からも見えず、忘れられてしまう幽霊の存在は、他人事とは思えないのだ。
 静かに歩み寄った玲子に、侍の幽霊が気づく。  
 明らかに戸惑い、警戒するその目を玲子へ向けた。  
 それでも玲子は臆することなく、小さな声で語りかける。

「……こんばんは。おひとりで寂しくは、ありませんか?」

 幽霊がまじまじと玲子を見る。その表情は、珍妙な生き物でも見るかのようだ。  
玲子は、ふっと笑みをこぼす。
 
「わたくし、榊原玲子と申します。良ければ、お話相手になって頂けませんか?」
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