明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、藤堂家へ

 目を覚ました玲子の瞳に、まず映ったのは見知らぬ天井だった。

「え……?」

 状況が飲み込めずにいると、不意に優しい声が響いた。

『おう、気がついたか』

 振り向いた先にいたのは、幽霊の一将だった。

「一将様⁉」

 驚きのあまり、玲子は勢いよく上体を起こす。

『玲子殿が狙われるやもしれぬと、何度も忠告したのだが……誰の耳にも届かぬのは、なかなか切ないものよ。ともあれ、どうにか間に合って何よりだった』

 一将は寂しげに目を細め、微笑んだ。
 玲子以外には、彼の声も姿も届かない。
 唯一会話ができる玲子でさえ、心が波立っていれば、彼の存在に気づけないことがある。

「一将様、ご心配をおかけして……。でも、まさか自分が狙われるだなんて、夢にも思っておりませんでした」

『まあ、無事で何よりだ。だがの……あの舞踏会で毒入りの葡萄酒を阻止したことで、犯人に目をつけられたようじゃ。孫のために、申し訳なく思っておる』
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