明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
藤堂様、花嫁候補って本気ですか?
尚文は楽しげに笑うが、将吾にはとても冗談には思えなかった。
「……軽々しく言うことじゃない。男爵令嬢を預かるというのは、それだけ重い責任を伴う。気まぐれや同情で預かると言い出すなんて、尚文らしくないな」
この時代、未婚女性の名誉は家の名に直結する。
一度でも他家の男性宅に身を寄せれば、それだけで“ふしだら”と後ろ指をさされかねない。
将吾は、そこを重く見ていた。
「だからこそ言ってるんだよ。本気で、彼女を嫁に迎える覚悟があるってこと」
尚文の声音には、どこか照れたような響きがあった。
「幸い、僕には妻も婚約者もいない。榊原男爵も議員を務めていて、本来なら、妾腹とはいえ娘の将来には責任を持たねばならない立場。許しは得られるはずさ。……それに、玲子君は控えめな性格で、容姿も可愛いだろ」
そう言って、尚文は白い歯を見せて笑う。
確かに、尚文の言葉には理がある。玲子を花嫁として迎えるつもりなら、預かるのはむしろ自然な流れ。
玲子は、将吾と尚文にとって命の恩人でもある。その身を守るのは当然だ。
……それなのに、尚文の話を聞いた将吾の胸にはモヤモヤとした感情が渦巻いていた。
「……軽々しく言うことじゃない。男爵令嬢を預かるというのは、それだけ重い責任を伴う。気まぐれや同情で預かると言い出すなんて、尚文らしくないな」
この時代、未婚女性の名誉は家の名に直結する。
一度でも他家の男性宅に身を寄せれば、それだけで“ふしだら”と後ろ指をさされかねない。
将吾は、そこを重く見ていた。
「だからこそ言ってるんだよ。本気で、彼女を嫁に迎える覚悟があるってこと」
尚文の声音には、どこか照れたような響きがあった。
「幸い、僕には妻も婚約者もいない。榊原男爵も議員を務めていて、本来なら、妾腹とはいえ娘の将来には責任を持たねばならない立場。許しは得られるはずさ。……それに、玲子君は控えめな性格で、容姿も可愛いだろ」
そう言って、尚文は白い歯を見せて笑う。
確かに、尚文の言葉には理がある。玲子を花嫁として迎えるつもりなら、預かるのはむしろ自然な流れ。
玲子は、将吾と尚文にとって命の恩人でもある。その身を守るのは当然だ。
……それなのに、尚文の話を聞いた将吾の胸にはモヤモヤとした感情が渦巻いていた。