明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
藤堂様、榊原家へ訪問する
昨晩、先触れの手紙が届いた榊原家では、早朝からてんやわんやの騒ぎになっていた。
約束の時刻になると、玄関の式台には玲子の父・榊原隆之と継母・百合絵が、緊張した面持ちで立ち並び、客人である藤堂将吾の到着を待ち構えていた。
「藤堂様、ようこそお越しくださいました」
玄関の土間に足を踏み入れた将吾は、玲子を長年冷遇してきた二人を前に、うっすらと笑みを浮かべる。
「いえ、急なお願いにも関わらず、快くお受けいただき感謝いたします」
当初、尚文が、「玲子を藤堂の家で保護するという話をつけに行く」と言い張ったが、将吾は首を縦に振らなかった。
「助けたのは自分だ。玲子が居るのは本家なのだから」と尚文を説き伏せ、今日の訪問となった。
通されたのは十畳ほどの座敷。床の間のある部屋で、将吾は隆之の向かいに腰を下ろした。
年齢は二回り以上も離れているはずなのに、軍服を着た将吾の存在感は圧倒的だ。
高い背丈に整った顔立ち、そしてその奥に潜む鋭い眼光に、隆之は息を呑んだ。
「この度は、当方の愚娘が、大変なご無礼を……藤堂様に多大なるご迷惑をおかけしたと聞き及んでおります。また、先日の舞踏会においても、不始末の数々、誠に申し訳ございません。玲子には、きつく申しつけておきますので、どうか、ご容赦を……」
開口一番、謝罪の言葉を並べる隆之。
だがそれは娘を思っての言葉ではない。
すべて、自身の体面を保つためのものだった。
約束の時刻になると、玄関の式台には玲子の父・榊原隆之と継母・百合絵が、緊張した面持ちで立ち並び、客人である藤堂将吾の到着を待ち構えていた。
「藤堂様、ようこそお越しくださいました」
玄関の土間に足を踏み入れた将吾は、玲子を長年冷遇してきた二人を前に、うっすらと笑みを浮かべる。
「いえ、急なお願いにも関わらず、快くお受けいただき感謝いたします」
当初、尚文が、「玲子を藤堂の家で保護するという話をつけに行く」と言い張ったが、将吾は首を縦に振らなかった。
「助けたのは自分だ。玲子が居るのは本家なのだから」と尚文を説き伏せ、今日の訪問となった。
通されたのは十畳ほどの座敷。床の間のある部屋で、将吾は隆之の向かいに腰を下ろした。
年齢は二回り以上も離れているはずなのに、軍服を着た将吾の存在感は圧倒的だ。
高い背丈に整った顔立ち、そしてその奥に潜む鋭い眼光に、隆之は息を呑んだ。
「この度は、当方の愚娘が、大変なご無礼を……藤堂様に多大なるご迷惑をおかけしたと聞き及んでおります。また、先日の舞踏会においても、不始末の数々、誠に申し訳ございません。玲子には、きつく申しつけておきますので、どうか、ご容赦を……」
開口一番、謝罪の言葉を並べる隆之。
だがそれは娘を思っての言葉ではない。
すべて、自身の体面を保つためのものだった。