明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

藤堂様、占いで吉報とはこれ如何に

 「……高名な占い師ですか」
 そう呟いた隆之は、狐につままれたように、ポカンと口を開けた。

 将吾は、フッと口角あげ、懐から封筒を取り出す
 そして、おもむろにそれを座卓の上に置いた。
 封筒の中身は、弐百円。
 当時、初任の教員の月給が八円前後の時代と考えると、破格の金額だ。
 しかも、これはほんの手付金。 
 今後、縁談が本決まりとなれば、さらに結納金が積まれるのは間違いない。
 その上、藤堂家に娘を嫁がせるとなれば、榊原家の名誉にも繋がる話。
「ハズレ者」と蔑まれてきた玲子が、まさかこんな幸運を引き当てるとは……。

 松林屋との縁談を独自に進めていた百合絵は、生唾をゴクリと飲み込み、隆之の顔をそっと窺った。
 隆之は、座卓の上の封筒をじっと見つめたのち、座布団を外して手をつき、深々と頭を下げた。

「藤堂様……玲子を、よろしくお願いいたします」

 長いものには巻かれる主義の男。その利己的な態度に将吾は内心辟易した。同時に、これで玲子を堂々と藤堂の家に迎え入れられると、胸を撫で下ろす。

「ご息女のこと、藤堂が責任をもってお預かりいたします。今後の詳細につきましては、改めてご連絡差し上げましょう」
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