明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様、張り切ります

「いえ、あの……本当に感謝しております。それで、滞在させていただく以上、何かお手伝いをしたいと思いまして。お掃除でも、お料理でも、頑張ります!」

 小さく拳を握り、やる気に満ちた玲子の姿に、将吾は思わず笑みをこぼした。
 とはいえ、男爵令嬢に下働きなどさせるわけにもいかない。
 考えを巡らせた将吾は、ふと一案を思いつく。

「そうだな……呉服屋を呼んで、反物を見繕ってもらおう。何枚か仕立ててくれないか?」

 将吾の言葉に、玲子は顔を輝かせた。

「はい! お針仕事は得意なんです。お役に立てるのでしたら、うれしいです」

「気に入った生地があれば、自分の分も何枚か作るといい。着替えも必要だろうしな」

「そこまでお気遣いを……ありがとうございます。わたくし、精一杯がんばりますね」

 誰かの役に立てるという実感。それは、玲子にとって初めて得た「居場所」だった。

 心が弾むように、彼女の笑顔がいっそう咲き誇る。その様子を見ていた将吾の胸が、また高鳴る。

(笑うだけで、こんなにも愛おしく見えるなんて。……この感情は、いったいなんだ?)

 熱を持て余し、将吾は口元に手を当てた。
 冷静さを保とうとしても、視線はつい玲子へと向いてしまう。
 彼女と目が合えば、途端にそれを逸らしてしまう自分がいて、将吾は思わず内心で苦笑した。

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