寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
2・2人の過去(武彦)
希美ちゃんと初めて出会ったのは、消防士になったばかりの時に行われた歓迎会のあとだった。
「ノンアルコールビールで、歩けないほど酔っ払うもんか? 最近の若者はこれだから……」
「それ、パワハラですよ。彼は指導係の私が、責任を持って面倒見るんで。失礼します」
年配の同僚に嫌味を言われた俺を庇った隊長は、住んでいる住所すらも満足に言えない状態の自分を自宅に連れ帰ってくれた。
「お父さん? お帰りなさ……」
――朦朧とする意識の中で、俺は女神に出会った。
腰まで長く伸びた髪はよく手入れがなされており、艶々と光に反射して輝いている。
毛先からは風呂上がりなのか、水滴が垂れてポツポツと床に滴り落ちていた。
隊長を不思議そうに見つめる彼女は、やがていつまで経っても玄関から室内に向かって進む様子のない父親がお荷物を背負っていると気づいたのだろう。
こちらに訝しげな視線を向けたあと、パタパタと奥の方へ走り去ってしまった。
――酔っ払って正常な判断が出来ていない状態なのが、恨めしい。
自己嫌悪に陥りながら吐き気と戦っていると、ふと頭上に影が差す。
いつの間にか、こちらを不安そうに窺う少女の姿と目が合ってぎょっとした。
「ノンアルコールビールで、歩けないほど酔っ払うもんか? 最近の若者はこれだから……」
「それ、パワハラですよ。彼は指導係の私が、責任を持って面倒見るんで。失礼します」
年配の同僚に嫌味を言われた俺を庇った隊長は、住んでいる住所すらも満足に言えない状態の自分を自宅に連れ帰ってくれた。
「お父さん? お帰りなさ……」
――朦朧とする意識の中で、俺は女神に出会った。
腰まで長く伸びた髪はよく手入れがなされており、艶々と光に反射して輝いている。
毛先からは風呂上がりなのか、水滴が垂れてポツポツと床に滴り落ちていた。
隊長を不思議そうに見つめる彼女は、やがていつまで経っても玄関から室内に向かって進む様子のない父親がお荷物を背負っていると気づいたのだろう。
こちらに訝しげな視線を向けたあと、パタパタと奥の方へ走り去ってしまった。
――酔っ払って正常な判断が出来ていない状態なのが、恨めしい。
自己嫌悪に陥りながら吐き気と戦っていると、ふと頭上に影が差す。
いつの間にか、こちらを不安そうに窺う少女の姿と目が合ってぎょっとした。