寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
4・家族3人暮らし
 ――寝るのは嫌いだ。
 夢の中に身を落とすといつだって、あの日の光景を鮮明に思い出してしまうから。
 年若い部下の未来を守るため、彼を庇って火災現場で業火に焼かれた父。
 己を責め、泣き腫らした表情で連日謝罪にやってくる片平さんに、イライラした。

「すまない。本当に……。もう二度と、会いに来るつもりはない。最後にそれだけを、伝えたかった」

 ――お父さんが命を賭けて守ったのに、どうしてあなたは「自分が死ぬべきだった」と全身で言い表すような態度で日々を過ごしているの?
 私たち家族と、関係を絶とうとするなんてあり得ない。

「まさかこのまま、逃げるんですか?」

 何もかもが、許せなかった。
 普段は無口で無表情なくせに、こういう時だけ傷ついていますと言わんばかりの表情をする彼が。
 何度も何度も、「もういいよ」って言っているのに謝罪を繰り返す彼が。

「私はずっと前から、あなたのことが好きだったのに……」

 だから、もう二度とそんな姿を見ないようにあいつの望む言葉を口にしてやった。
 彼は申し訳なさと歓喜が入り混じった顔で、こちらをじっと見つめている。
 そんな姿すらも、苛立って仕方がない。
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