捨てられOLを溺愛する根暗エンジニアの正体は?

3.友達以上恋人未満

 コツコツコツとリズミカルに鳴る新品のヒール。
 マーメイドタイトスカート、ウエストが細く見える切り返しの清楚な白いブラウスに夏らしい色のスカーフ。首元には主張しすぎない小さなダイヤモンドのネックレス、そしてお揃いの揺れるイヤリング。
 片編み込みで顔周りをすっきりさせたゆるふわの髪に、昨日コスメ店で一式揃えた完璧メイク。
 見事に変身した彩葉と廊下ですれ違った男性社員たちは何人も振り返った。

「……嘘だろ? 彩葉?」
 社内では滅多に会わない流星の姿が廊下の奥に見えたが、彩葉はもちろん気にせず自分の執務室に入った。

 うちの会社は他部署へ気軽に入れないようにセキュリティがしっかりしている。
 以前はなかなか流星に会えず不満だったが、今となっては会わずにすんでホッとしている自分がなんだかおかしかった。

「おはよう、平野」
「おはようございます、山崎さん」
「いいじゃない、その髪型も服装も」
 先輩の山崎に似合っていると褒められた彩葉は、照れながら微笑んだ。
 ここの人たちは山崎も含め、私が流星と3年も付き合っていたことを知らない。

「さては彼氏ができたな?」
「逆です。フラれたんです」
 だから貯金をパーッと使っちゃいましたと笑った彩葉に山崎は「え? 本当に?」と驚きを見せた。

 仕事はいつも通り。淡々とお客さんからの電話やメールの問い合わせに答えていく。
 不思議なのはなんとなく今日はみんなが優しいこと。
 フラれたという言葉が聞こえてしまったのか、なぜかお菓子を分けてくれるのだ。

 お昼は食堂には行かずに自席で。
 営業の流星は外で食べる日の方が多いが、たまに食堂で食べているからだ。
 うっかりでも会いたくない。
 心が狭いかもしれないけれど。

「平野さん、あのさ、時間あったら飲みに……」
「あ! すみません。今日は約束があって」
 また誘ってくださいと謝罪し、彩葉は席を立つ。

 今日は18時に会社のエントランスで九条と待ち合わせだ。
 借りた九条の服をロッカーから取り出し、17時50分にエントランスへ。
 10分前に下りてきたはずなのに、スマホを見ながら待っている九条の姿に驚いた彩葉は急いで会社のセキュリティゲートをくぐった。
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