捨てられOLを溺愛する根暗エンジニアの正体は?

5.最低な彼女

 マンションの駐車場に止めた車に乗り込んだ凌は、眼鏡をはずし前髪を掻きあげた。

「最低だな、あの男」
 自分勝手にも程があると溜息をつきながら車のエンジンをかけた凌は実家へ。

「おかえりなさいませ。凌様」
 有名な高級住宅街の一区画にある実家へ戻った凌は、当然のように自分の部屋に向かった。

 平日の夜は残業後にここまで帰ってくるのが面倒で、会社に近いマンションで寝泊まりしている。
 だから、あの部屋を彩葉に貸し出したところで何も困らないが、きっと今頃気にしているのだろう。

『実家についたよ。おやすみ。また明日』
 メッセージを送るとすぐに既読になる。

『おやすみなさい。今日はありがとう』
 こんなやり取りだけでうれしくなる。
 明日も会えると思うと浮かれる気持ちを隠せない。

「凌様、今よろしいでしょうか?」
「あぁ」
 ノックの音と共に入ってきたのは眼鏡にスーツのいかにも真面目そうな秘書、益富だった。

「本日、営業部の荒巻流星に内々示をしました」
 手渡された書類の会社は、鹿児島の小さな取引先。
 あのBBQのあとすぐに流星の出向先を探してもらったがなかなか受け入れ先がなく、ようやく見つかったのがこの会社。
 荒巻流星は来月からこの会社に出向だと、今日本人にだけこっそり伝えられた。
 任期は一年間。上の意向のため拒否権はないと部長が伝えたと益富は淡々と報告した。

「……なるほど。鹿児島に転勤が決まったから、彩葉のところに復縁を迫りに来たのか」
 やはり最低な男だと呟きながら書類を返すと、益富はお辞儀をして去っていく。

「そろそろ付き合おうと言ってもいいのだろうか……?」
 だが、NOと言われたら立ち直れない。
 商談は強気で即決できるのに、システム製作も即時対応できるのに、恋愛だけは上手くいかないなと凌はベッドに転がりながら大きく息を吐いた。
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