捨てられOLを溺愛する根暗エンジニアの正体は?

2.下心のない根暗エンジニア

 九条のマンションは本当に会社のすぐ近くだった。
 駅から離れる方向だったが、駐車場完備の賃貸マンション。
 普段は徒歩で通っているのだと九条は教えてくれた。

「狭くてすみません」
「お邪魔します」
 最低限の家具しかなく、すぐに部屋全体が見渡せてしまう20畳ほどのワンルーム。
 掃除は行き届き、ベッドメイキングも完璧。
 小物が多い自分の部屋とは全然違う男性の部屋に彩葉は驚いた。

「どうぞ」
 九条はクローゼットから新品のタオルと黒いTシャツと黒いハーフパンツを取り出す。
 バスルームの扉を開けながら、足を洗った方がいいと言われた彩葉は、自分の足が思ったよりも土だらけだったことに驚いた。

「あの、九条さん」
 にっこり微笑まれながらバスルームの扉が閉められる。
 彩葉は土と血で汚れた足を見ながら大きく息を吐いた。

 足は自分が思っていたよりも悲惨だった。
 小学生ですか? と聞きたくなるほどの擦り傷はもちろんお湯をかけたら沁みた。

 本当に馬鹿だ。
 振られた挙句、こんな怪我までして。
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