恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
暦の上ではとうに秋だというのに、その暑さはなかなか止まるところを知らず、毎日毎日暑い日が続いていた。
窓際に置いている机でうんうん唸る私は、時折窓の外の強い日差しに目を向けては、「眩しっ」と目を傷めて、また手元のパソコンに視線を戻す。
パソコンの画面を見つめてみても、やっぱりうんうんと唸ることしかできない。
「……やばい……なにも思い付かない……」
目の前のパソコン画面には文書作成ソフトが開かれているけれど、その画面はもう数時間真っ白なままだった。
「やっぱり向いてないのかもなぁ……」
パソコンの横に置いてある数冊の文庫本をぱらぱらとめくる。
その本たちは、私が書いた小説だった。
今年28歳になる私、咲坂 美琴は、恋愛小説家である。
デビューは高校卒業の18歳。当時の悩みや気持ちを綴った青春小説がたまたま編集さんの目にとまって書籍化デビュー。それからも青春小説を書き続けていたんだけど、ここ数年、恋愛小説家として名前が広がっている。
というのも、現編集担当の恵さんが、ぜひ私の書いた恋愛小説を読んでみたいと言ってくれて、それから恋愛小説にチャレンジ。大きなヒットはないけれど、そこそこファンの方もついてくれていて、有難いことにコンスタントに仕事をいただけている状態だ。
ちょうど今も恋愛小説の次回作について案を練っているわけだけれど、私の筆はぴたりと止まっている。止まっているもなにも、動き始めてすらいないのだけれど……。
「……ああ、やっぱり私に恋愛小説なんて無理だよぉぉお~!!」
私はぼさぼさの髪をかき毟りながら嘆く。
私が恋愛小説を書くなんて無理。だって。
「私、恋愛したことないんだもん……!!!」
28歳の私、咲坂 美琴は、恋愛経験ゼロ。彼氏などできたことすら、いや恋をしたことすらない、年齢=彼氏なし歴のおひとり様女子である。
小中校一貫の女子校に通い、就職活動をすることもなく小説家として引きこもって早数年。どこに出逢いの場があると言うのか。まぁそもそも男性が苦手だから女子校を選んだのだけれど。
生まれてこの方、男性と接したことがほとんどないせいで、この歳になっても男性とどう接していいのかわからない。故に担当さんや編集さんもいつも女性の方にお任せしているほどだ。
恋愛小説家の私が、まさか恋愛をしたことがないなんて恥ずかしすぎる隠し事、世間には絶対知られるわけにはいかない。
「ええ……先生って恋愛したことないんだって……」、「え?じゃあ全部妄想で小説書いてるってこと?」、「恋愛経験皆無のくせに妄想だけ立派すぎわろた」、「草」。
「とか、ネットに書かれるに違いない……っ!」
想像するだけで筆を折りそう……。
恋愛小説家の私が恋愛したことないおひとり様女子だという隠し事は、墓場まで持っていく所存だ。
そんな風に被害妄想を膨らませていると、ピンポーン、と玄関のチャイムが軽快に鳴った。
時計を見れば、午後一時半。担当さんとの打ち合わせの時間だった。
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