すれ違いの果てに見つけた愛
第九章:四年ぶりの再会
カフェの扉のベルが鳴った瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。
振り向いた先に立っていたのは、四年前と何一つ変わらぬ鋭い眼差しを持つ男——西園寺翔。
黒のスーツに身を包み、背筋を伸ばしたその姿は、相変わらず周囲を圧倒する存在感を放っていた。
低く落ちる声に、空気が一瞬で張り詰める。
私は息を呑み、背筋が硬直した。
「……どうして」
声はかすれていた。
翔はゆっくりと歩み寄り、カウンターの前に立つ。
悠真が驚いたようにこちらを見たが、状況を察して気まずそうに奥へ下がった。
残されたのは、私と翔。
四年ぶりに向かい合う、決して交わらないはずだったふたり。
短い言葉に、心臓が大きく脈打った。
けれど、私は顔を逸らす。
強がるように返す声が震えているのを、自分でも感じた。
翔は眉ひとつ動かさず、じっと私を見据える。
「お前は俺の妻だ」
「……もう、違うわ」
胸が痛い。
何度も自分に言い聞かせてきた言葉なのに、彼の前で口にすると涙が込み上げそうになる。
「契約は終わった。私たちは赤の他人よ」
「赤の他人……?」
翔の瞳が鋭く光る。
その奥に、冷たさだけでなく、何か抑え込んだ激情が揺らめいているように見えた。
カウンター越しに並ぶ二人。
私は必死に平静を装おうとした。
「ここでの生活は、私の選んだ道よ。翔さんには関係ない」
「関係は、ある。」
即座に返された言葉に、胸がざわつく。
「四年も……お前を追いかけた」
その言葉に、呼吸が止まりそうになった。
私がいなくなってからの時間。
彼は、私を探していた——?
「嘘よ。そんなこと……」
「嘘じゃない」
翔の声が強く響く。
静まり返ったカフェに、ふたりの声だけが残る。
「お前がいなくなってから、家は静まり返った。……あの冷たい屋敷が、さらに空虚になった。俺は毎日、自分が何を失ったのか思い知らされた」
胸が苦しい。
信じたい気持ちと、信じてはいけないという理性がぶつかり合う。
「……やめて。そんなこと言われても困るの。私はもう——」
「杏里」
低く名を呼ばれ、心臓が跳ねる。
彼の視線に射抜かれて、逃げ出したいのに足が動かない。
沈黙ののち、私は小さく呟いた。
「翔さん……あの時、どうして私を見てくれなかったの?」
堰を切ったように、胸の奥の痛みが溢れる。
「私、あなたの隣にいるだけでよかった。でも……一度も、私を妻だと抱きしめてくれなかった」
涙が頬を伝う。
翔は何も言わず、ただその姿を見つめていた。
やがてゆっくりと口を開く。
「……怖かった」
「え……?」
「俺はお前を愛していた。だからこそ、巻き込みたくなかった。感情を抑えれば守れると思った。……だが、それが間違いだった」
胸が大きく波打つ。
翔の声に、あの冷たい男がこんな言葉を吐くなんて、と信じられなかった。
「ならどうして……今さら——」
「今さらじゃない。……これからだ」
翔がカウンター越しに伸ばした手が、私の指先を捕らえる。
驚きで動けない。
熱が伝わってきて、心が乱れる。
「もう二度と、お前を離さない」
低く囁かれた言葉に、胸が強く震えた。
その瞬間、カフェの扉が開き、客が入ってきた。
私と翔の手が触れ合っているのを見て、悠真が慌てて声をかける。
「杏里さん……注文、お願いできますか?」
現実に引き戻され、私は慌てて手を引いた。
翔の瞳が一瞬だけ悲しげに揺れた。
私は深く息を吐き、声を震わせながら言った。
「……もう帰って。ここは、あなたの世界じゃない」
翔は何も言わず、しばし私を見つめた。
その瞳の奥に、諦めきれない光が宿っている。
「……また来る」
短くそう言い残し、彼は背を向けて店を出て行った。
扉のベルが鳴り、静寂が残る。
私は震える両手を胸に当て、呟いた。
「どうして……今さら……」
涙が零れ落ちた。
四年前に置き去りにした心が、再び強引に引き寄せられていく。
振り向いた先に立っていたのは、四年前と何一つ変わらぬ鋭い眼差しを持つ男——西園寺翔。
黒のスーツに身を包み、背筋を伸ばしたその姿は、相変わらず周囲を圧倒する存在感を放っていた。
低く落ちる声に、空気が一瞬で張り詰める。
私は息を呑み、背筋が硬直した。
「……どうして」
声はかすれていた。
翔はゆっくりと歩み寄り、カウンターの前に立つ。
悠真が驚いたようにこちらを見たが、状況を察して気まずそうに奥へ下がった。
残されたのは、私と翔。
四年ぶりに向かい合う、決して交わらないはずだったふたり。
短い言葉に、心臓が大きく脈打った。
けれど、私は顔を逸らす。
強がるように返す声が震えているのを、自分でも感じた。
翔は眉ひとつ動かさず、じっと私を見据える。
「お前は俺の妻だ」
「……もう、違うわ」
胸が痛い。
何度も自分に言い聞かせてきた言葉なのに、彼の前で口にすると涙が込み上げそうになる。
「契約は終わった。私たちは赤の他人よ」
「赤の他人……?」
翔の瞳が鋭く光る。
その奥に、冷たさだけでなく、何か抑え込んだ激情が揺らめいているように見えた。
カウンター越しに並ぶ二人。
私は必死に平静を装おうとした。
「ここでの生活は、私の選んだ道よ。翔さんには関係ない」
「関係は、ある。」
即座に返された言葉に、胸がざわつく。
「四年も……お前を追いかけた」
その言葉に、呼吸が止まりそうになった。
私がいなくなってからの時間。
彼は、私を探していた——?
「嘘よ。そんなこと……」
「嘘じゃない」
翔の声が強く響く。
静まり返ったカフェに、ふたりの声だけが残る。
「お前がいなくなってから、家は静まり返った。……あの冷たい屋敷が、さらに空虚になった。俺は毎日、自分が何を失ったのか思い知らされた」
胸が苦しい。
信じたい気持ちと、信じてはいけないという理性がぶつかり合う。
「……やめて。そんなこと言われても困るの。私はもう——」
「杏里」
低く名を呼ばれ、心臓が跳ねる。
彼の視線に射抜かれて、逃げ出したいのに足が動かない。
沈黙ののち、私は小さく呟いた。
「翔さん……あの時、どうして私を見てくれなかったの?」
堰を切ったように、胸の奥の痛みが溢れる。
「私、あなたの隣にいるだけでよかった。でも……一度も、私を妻だと抱きしめてくれなかった」
涙が頬を伝う。
翔は何も言わず、ただその姿を見つめていた。
やがてゆっくりと口を開く。
「……怖かった」
「え……?」
「俺はお前を愛していた。だからこそ、巻き込みたくなかった。感情を抑えれば守れると思った。……だが、それが間違いだった」
胸が大きく波打つ。
翔の声に、あの冷たい男がこんな言葉を吐くなんて、と信じられなかった。
「ならどうして……今さら——」
「今さらじゃない。……これからだ」
翔がカウンター越しに伸ばした手が、私の指先を捕らえる。
驚きで動けない。
熱が伝わってきて、心が乱れる。
「もう二度と、お前を離さない」
低く囁かれた言葉に、胸が強く震えた。
その瞬間、カフェの扉が開き、客が入ってきた。
私と翔の手が触れ合っているのを見て、悠真が慌てて声をかける。
「杏里さん……注文、お願いできますか?」
現実に引き戻され、私は慌てて手を引いた。
翔の瞳が一瞬だけ悲しげに揺れた。
私は深く息を吐き、声を震わせながら言った。
「……もう帰って。ここは、あなたの世界じゃない」
翔は何も言わず、しばし私を見つめた。
その瞳の奥に、諦めきれない光が宿っている。
「……また来る」
短くそう言い残し、彼は背を向けて店を出て行った。
扉のベルが鳴り、静寂が残る。
私は震える両手を胸に当て、呟いた。
「どうして……今さら……」
涙が零れ落ちた。
四年前に置き去りにした心が、再び強引に引き寄せられていく。