すれ違いの果てに見つけた愛
第十一章:翔の嫉妬
昼下がりのカフェは、柔らかな陽射しに包まれていた。
常連客が新聞をめくり、学生たちがノートを広げる。
いつもと変わらぬ日常のはずだった。
けれど私は、妙に落ち着かなかった。
カウンターの向こうで悠真が楽しげに話しかけてくる。
「杏里さん、最近少し顔色いいね。前よりよく笑うようになった」
「……そうかしら」
「うん。だからさ、良かったよ。ここに来てくれて」
屈託のない笑み。
優しい言葉に胸が温かくなると同時に、どこかざわめいた。
(翔さんが聞いたら、きっと……)
その予感は、すぐに現実となった。
午後、店の扉が開く音がした。
振り向いた瞬間、鼓動が跳ね上がる。
——翔。
黒いスーツに身を包み、冷ややかな眼差しをこちらに向けていた。
店内の空気が一瞬で凍りつく。
「いらっしゃいませ……」
震える声で挨拶をすると、翔は無言のままカウンターに歩み寄る。
悠真が驚いたように目を丸くした。
「杏里さん、この人……?」
その言葉に、翔の瞳が鋭く光った。
「誰だ。お前と親しげに話していた男は」
低く落ちる声に、全身が凍りつく。
翔の眼差しは悠真に突き刺さり、威圧感で店内が張り詰めた。
「ちょ、ちょっと待ってください。彼は同僚で——」
「答えろ、杏里」
遮るように言葉が落ちる。
私は唇を噛み、必死に声を絞り出した。
「……同じ店で働いているだけ。何もありません」
翔は悠真を睨んだまま、ゆっくりと吐き捨てる。
「……近づくな」
その声音に、悠真が怯んで一歩下がった。
私は慌てて翔の腕を掴む。
「やめて! ここは翔さんの世界じゃないの。勝手なこと言わないで!」
「勝手……? 俺の女が他の男と笑っているのを黙って見ていろと言うのか」
その一言に、胸が大きく震える。
店長が気まずそうに「少し外で話したら?」と促した。
私は翔に腕を引かれ、半ば強引にカフェの外へ連れ出された。
夕陽が街を赤く染めている。
人気の少ない路地に押し込まれ、翔の瞳と正面から向き合わされた。
「杏里。……あの男と、どこまでの関係だ」
「だから、何もないって言ってる!」
「笑っていた」
「同僚だからよ! お客様を前にして笑うのは当たり前でしょう!」
「俺には見せなかった」
短く吐き出された言葉に、心臓が痛んだ。
翔の声には、怒りだけでなく、深い寂しさが混じっていた。
「俺の前では、そんな笑顔を見せなかった……」
「だって、翔さんは——私を見てくれなかったじゃない!」
涙があふれた。
四年前の孤独と痛みが蘇る。
「私がどれだけあなたに笑いかけても、あなたは一度も返してくれなかった。隣にいても、まるで透明みたいに……!」
翔の瞳が苦しげに揺れる。
「……すまない」
低く、掠れた声。
その一言に、胸が揺さぶられる。
「けれど、今は違う。俺はもう二度と……お前を他の誰にも奪わせない」
翔の手が伸び、私の頬を強く掴んだ。
熱い視線が突き刺さる。
「杏里。お前は俺のものだ」
「……そんな言葉、信じられない」
必死に振りほどこうとする。
けれど、彼の掌の熱に心が乱れる。
「信じさせる。何度でも」
囁きが耳に触れ、背筋が震えた。
夜の風が吹き抜ける。
翔の影が、かつてよりも大きく濃く、私を覆い尽くしていた。
(翔さん……あなたは、どうしてこんなに私を縛ろうとするの……?)
涙が零れ落ちても、彼は手を離さなかった。
嫉妬と独占に燃える瞳が、私を逃がさないように見つめ続けていた。
常連客が新聞をめくり、学生たちがノートを広げる。
いつもと変わらぬ日常のはずだった。
けれど私は、妙に落ち着かなかった。
カウンターの向こうで悠真が楽しげに話しかけてくる。
「杏里さん、最近少し顔色いいね。前よりよく笑うようになった」
「……そうかしら」
「うん。だからさ、良かったよ。ここに来てくれて」
屈託のない笑み。
優しい言葉に胸が温かくなると同時に、どこかざわめいた。
(翔さんが聞いたら、きっと……)
その予感は、すぐに現実となった。
午後、店の扉が開く音がした。
振り向いた瞬間、鼓動が跳ね上がる。
——翔。
黒いスーツに身を包み、冷ややかな眼差しをこちらに向けていた。
店内の空気が一瞬で凍りつく。
「いらっしゃいませ……」
震える声で挨拶をすると、翔は無言のままカウンターに歩み寄る。
悠真が驚いたように目を丸くした。
「杏里さん、この人……?」
その言葉に、翔の瞳が鋭く光った。
「誰だ。お前と親しげに話していた男は」
低く落ちる声に、全身が凍りつく。
翔の眼差しは悠真に突き刺さり、威圧感で店内が張り詰めた。
「ちょ、ちょっと待ってください。彼は同僚で——」
「答えろ、杏里」
遮るように言葉が落ちる。
私は唇を噛み、必死に声を絞り出した。
「……同じ店で働いているだけ。何もありません」
翔は悠真を睨んだまま、ゆっくりと吐き捨てる。
「……近づくな」
その声音に、悠真が怯んで一歩下がった。
私は慌てて翔の腕を掴む。
「やめて! ここは翔さんの世界じゃないの。勝手なこと言わないで!」
「勝手……? 俺の女が他の男と笑っているのを黙って見ていろと言うのか」
その一言に、胸が大きく震える。
店長が気まずそうに「少し外で話したら?」と促した。
私は翔に腕を引かれ、半ば強引にカフェの外へ連れ出された。
夕陽が街を赤く染めている。
人気の少ない路地に押し込まれ、翔の瞳と正面から向き合わされた。
「杏里。……あの男と、どこまでの関係だ」
「だから、何もないって言ってる!」
「笑っていた」
「同僚だからよ! お客様を前にして笑うのは当たり前でしょう!」
「俺には見せなかった」
短く吐き出された言葉に、心臓が痛んだ。
翔の声には、怒りだけでなく、深い寂しさが混じっていた。
「俺の前では、そんな笑顔を見せなかった……」
「だって、翔さんは——私を見てくれなかったじゃない!」
涙があふれた。
四年前の孤独と痛みが蘇る。
「私がどれだけあなたに笑いかけても、あなたは一度も返してくれなかった。隣にいても、まるで透明みたいに……!」
翔の瞳が苦しげに揺れる。
「……すまない」
低く、掠れた声。
その一言に、胸が揺さぶられる。
「けれど、今は違う。俺はもう二度と……お前を他の誰にも奪わせない」
翔の手が伸び、私の頬を強く掴んだ。
熱い視線が突き刺さる。
「杏里。お前は俺のものだ」
「……そんな言葉、信じられない」
必死に振りほどこうとする。
けれど、彼の掌の熱に心が乱れる。
「信じさせる。何度でも」
囁きが耳に触れ、背筋が震えた。
夜の風が吹き抜ける。
翔の影が、かつてよりも大きく濃く、私を覆い尽くしていた。
(翔さん……あなたは、どうしてこんなに私を縛ろうとするの……?)
涙が零れ落ちても、彼は手を離さなかった。
嫉妬と独占に燃える瞳が、私を逃がさないように見つめ続けていた。