すれ違いの果てに見つけた愛

第二十章:運命の選択

 冷たい雨が降り続いていた。
 街灯の下、濡れたアスファルトに光が揺れ、傘の下で私は翔と向き合っていた。

「杏里……」

 翔の声は、低く、熱を帯びている。
 四年前とは違う。
 でも、その変化を信じていいのか、胸の奥はまだ揺れていた。



「俺はもう一度だけ聞く」

 翔はまっすぐに私を見据える。
 雨粒が頬を滑り落ちるのも気にせず、力強く言葉を紡いだ。

「俺と共に生きてほしい。家が何を言おうと、誰が邪魔をしようと関係ない。……俺が望むのはお前だけだ」

 鼓動が激しく鳴り響く。
 でも、不安が胸を締めつけた。

「翔さん……私、また同じ孤独に戻るのが怖いの」

「戻さない。二度と」

「……でも、家の人たちも麻衣さんも、私を認めてくれない。あなたの立場を奪うかもしれない。そんな重荷、私に背負えるの……?」

 涙が滲む。
 翔は一歩近づき、私の肩を強く掴んだ。

「杏里。お前が隣にいなければ、立場も名誉も意味がない。……お前を選ばないくらいなら、跡継ぎなんて捨てて構わない」

 胸が大きく震える。
 そんな言葉を彼が言うなんて、想像もしなかった。



「俺はな……お前を失った四年間、地獄だった。
 どんなに仕事をこなしても、豪奢な部屋に戻っても、空っぽで何の意味もなかった。
 だからもう一度だけ……選ばせてくれ」

 翔の瞳が、痛いほど真剣に光る。

「杏里。……お前は、俺と生きてくれるか」

 雨音が強まり、世界が二人だけになったように感じた。
 信じたい。
 でも怖い。

(私は……どうしたいの……?)

 揺れる心に、答えを探す。



「翔さん……」

 涙で滲む視界の中で、私は震える声を絞り出した。

「私は……あなたをまだ完全には信じられない。あの冷たい日々を忘れられないから……」

 翔の瞳に影が落ちる。
 けれど、私は続けた。

「でも——」

 胸の奥が熱くなる。
 翔が泣きながら抱きしめてくれた夜、互いに弱さを見せ合った時間。
 その記憶が、私を後押ししていた。

「それでも……もう一度だけ、信じてみたい。あなたと、未来を……」

 翔の瞳が大きく揺れ、次の瞬間、強く私を抱きしめた。

「……ありがとう。絶対に裏切らない。お前を守り抜く」

 雨の中、彼の声は震えていた。
 けれど、その腕は揺るぎなく私を包んでいた。



 涙が溢れ、彼の胸に顔を埋めた。
 四年前には得られなかった温もり。
 今、ようやく触れることができた。

(私の選択は間違っていない……そう信じたい)

 未来はまだ不確かで、家の壁も麻衣の影も消えてはいない。
 けれど——。

 翔と共に歩む道を、私は選ん
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