騙され婚〜私を騙した男の溺愛が止まらない〜
10
結婚して一年が経とうとしている。
美麗は嶺二によって、家では可愛いを我慢せず纏うようになった。
甘いものも食べるし、可愛い雑貨も家中に飾って満喫しているほどだ。
それでも美麗は、いまだに嶺二にツンツンだ。
「勘違いしないで! 貴方にバレてるから好きにしてるだけなんだから」
以前よりも生き生きとしている美麗。嶺二は、そんな美麗の姿を見て、蕩けるような微笑みを浮かべる。自分の前だけで本当の姿を見せてくれる。それが嶺二にとって最高に独占欲を満たしてくれる。
「明日、ご祖父様が来るけれど可愛いものは片付けておくかい?」
「……そうね。全部は無理でも少し隠しておきましょ」
そう言った瞬間、さらに嶺二の欲は満たされた。それもそのはず。
一番信頼している祖父にだってまだ隠したいもの――それを嶺二は許されているのだから。
「わかった。隠しておくよ」
――次の日
祖父が手土産を持って家へと訪れた。父と母も一緒に来ており、「久しぶり」と挨拶を交わした。
「メッセージで状況は聞いていたが……美麗、嶺二くんと結婚してさらに綺麗になってないかい?」
「そう? 変わりないと思うけど……」
「そんなことないわよ。幸せそうでよかったわ」
父は母と娘を交互に見つめ「うちは美人ばかりだな〜」と微笑ましそうに言い、母は「娘に関しては貴方のおかげよ」なんて娘の前で惚気ている。
そんな二人を見て、美麗は苦く笑った。
まさかこれがすべて嶺二のおかげだとは、口が裂けても言えないこと。
実家にいた時よりもストレスがなく、快適に過ごしている。
なお、実家でのストレスは、お見合いの話や自身のケアをしてくれるメイド達の存在。もちろん良かれと思ってしてくれているのだから、嫌とも言えず。いつも気が張っていたのだ。
祖父は美麗の側により、嶺二に聞かれないように小さな声で問いかけた。
「嶺二くんとの結婚はどうだい? 幸せかい? それとも離婚したい? もし離婚するとしても心配はいらない。ワシがもっと良い男を見つけてあげるからね」
祖父は、父と話していた嶺二を一瞥した後、美麗を優しく見つめた。
正直なところ、「お祖父様のせいで結婚したんですけど?」と言ってやりたかったが、別の新しい男と結婚し直したい気持ちは毛頭なかった。
「……あの人で、いいです」
その時の顔は、祖父は忘れられないだろう。
いつも険しい顔をしていた美麗の表情は緩んでいる。また、赤く染まった頬は少女が恋に落ちた瞬間の様。
これはもう完璧、嶺二に落ちていると祖父は確信した。それと同時に、嶺二の初恋が実ったことに、勝手ながら心のうちで祝福をしたのだった。
ちなみに嶺二は、美麗の父との会話を済ませ、祖父と美麗の会話を盗み聞きをしていた。
それもあって、美麗の最高潮のデレに動揺が隠せない。
誤って花瓶を落としてしまう。パリーンとあっけなく割れ、嶺二は笑みを引っ込め頭を下げた。
「……失礼しました。すぐに片付けます」
「嶺二! 怪我はない? 貴方も失敗することがあるのね」
以前の美麗なら、「鈍臭いわね」で済ますはず。だが、割れた瞬間に大好きな祖父との会話をやめ、嶺二を見た。そして状況を把握した後、すぐに箒と塵取りを持ち、嶺二の側まで駆け寄った。
「美麗……ありがとう」
その姿を見た美麗の家族は、『この男になら任せられる』そう目配せしたのは、美麗と嶺二が知る由もなかった。
◇
花瓶を落としたこと以外はつつがなく、美麗の家族は満足そうに家を後にした。
二人は協力して後片付けをしてすぐにいつも通り、可愛らしさを散りばめた空間へと戻した。
ケーキ入刀以来の共同作業だ。
そのあとは、一緒のソファで休憩をとった。
「貴方、お祖父様との会話聞いてたでしょう?」
「ごめんね、ちょっと不安になっちゃって」
「……忘れて」
「ええ?」
か細い声でそう言って、美麗は顔を両手で隠した。
嶺二は、怒って「忘れなさい!」と強く言われると思っていたこともあり、呆気にとられる。
「あんなに可愛い美麗を忘れられるわけないだろう?」
美麗の両手を顔から引き剥がし、覗き込むように美麗を見つめた。
恥ずかしい美麗は嶺二と視線を合わせない。
「……もう、いいわ。どうせ貴方に隠し事はできないもの」
「ふふ、隠していても僕が暴いてしまうからね」
「ほんっと、貴方って人は……」
真面目な顔をして言う嶺二に、美麗は呆れ気味に顔を上げた。
「私が可愛いものや甘いものが好きってことは、絶対に誰にも言わないでよ?」
「言わないよ。僕だけの秘密にする。そもそも、言うなんて惜しいことするわけないだろう」
「それもそうね」
美麗は嶺二に用意してもらった甘いココアを飲み、一息。
隠し事もなくなったからか、だいぶ嶺二へ隙を見せるようになってきた美麗。
その姿に、嶺二はたまらなく愛おしい気持ちになった。
「美麗、選んでくれてありがとう」
嶺二は、美麗がカップを置いたタイミングで、美麗をおもむろに抱きしめた。突然のスキンシップに美麗は、顔を真っ赤にして動揺。
恐る恐る抱きしめ返し、美麗は嶺二の背中を撫でた。
「……こっちこそ、勝手に結婚させられて悔しかったけど。今は……まぁ、良いわ」
互いに見つめ合い、二人は初めて双方愛のあるキスをしたのだった。
美麗は嶺二によって、家では可愛いを我慢せず纏うようになった。
甘いものも食べるし、可愛い雑貨も家中に飾って満喫しているほどだ。
それでも美麗は、いまだに嶺二にツンツンだ。
「勘違いしないで! 貴方にバレてるから好きにしてるだけなんだから」
以前よりも生き生きとしている美麗。嶺二は、そんな美麗の姿を見て、蕩けるような微笑みを浮かべる。自分の前だけで本当の姿を見せてくれる。それが嶺二にとって最高に独占欲を満たしてくれる。
「明日、ご祖父様が来るけれど可愛いものは片付けておくかい?」
「……そうね。全部は無理でも少し隠しておきましょ」
そう言った瞬間、さらに嶺二の欲は満たされた。それもそのはず。
一番信頼している祖父にだってまだ隠したいもの――それを嶺二は許されているのだから。
「わかった。隠しておくよ」
――次の日
祖父が手土産を持って家へと訪れた。父と母も一緒に来ており、「久しぶり」と挨拶を交わした。
「メッセージで状況は聞いていたが……美麗、嶺二くんと結婚してさらに綺麗になってないかい?」
「そう? 変わりないと思うけど……」
「そんなことないわよ。幸せそうでよかったわ」
父は母と娘を交互に見つめ「うちは美人ばかりだな〜」と微笑ましそうに言い、母は「娘に関しては貴方のおかげよ」なんて娘の前で惚気ている。
そんな二人を見て、美麗は苦く笑った。
まさかこれがすべて嶺二のおかげだとは、口が裂けても言えないこと。
実家にいた時よりもストレスがなく、快適に過ごしている。
なお、実家でのストレスは、お見合いの話や自身のケアをしてくれるメイド達の存在。もちろん良かれと思ってしてくれているのだから、嫌とも言えず。いつも気が張っていたのだ。
祖父は美麗の側により、嶺二に聞かれないように小さな声で問いかけた。
「嶺二くんとの結婚はどうだい? 幸せかい? それとも離婚したい? もし離婚するとしても心配はいらない。ワシがもっと良い男を見つけてあげるからね」
祖父は、父と話していた嶺二を一瞥した後、美麗を優しく見つめた。
正直なところ、「お祖父様のせいで結婚したんですけど?」と言ってやりたかったが、別の新しい男と結婚し直したい気持ちは毛頭なかった。
「……あの人で、いいです」
その時の顔は、祖父は忘れられないだろう。
いつも険しい顔をしていた美麗の表情は緩んでいる。また、赤く染まった頬は少女が恋に落ちた瞬間の様。
これはもう完璧、嶺二に落ちていると祖父は確信した。それと同時に、嶺二の初恋が実ったことに、勝手ながら心のうちで祝福をしたのだった。
ちなみに嶺二は、美麗の父との会話を済ませ、祖父と美麗の会話を盗み聞きをしていた。
それもあって、美麗の最高潮のデレに動揺が隠せない。
誤って花瓶を落としてしまう。パリーンとあっけなく割れ、嶺二は笑みを引っ込め頭を下げた。
「……失礼しました。すぐに片付けます」
「嶺二! 怪我はない? 貴方も失敗することがあるのね」
以前の美麗なら、「鈍臭いわね」で済ますはず。だが、割れた瞬間に大好きな祖父との会話をやめ、嶺二を見た。そして状況を把握した後、すぐに箒と塵取りを持ち、嶺二の側まで駆け寄った。
「美麗……ありがとう」
その姿を見た美麗の家族は、『この男になら任せられる』そう目配せしたのは、美麗と嶺二が知る由もなかった。
◇
花瓶を落としたこと以外はつつがなく、美麗の家族は満足そうに家を後にした。
二人は協力して後片付けをしてすぐにいつも通り、可愛らしさを散りばめた空間へと戻した。
ケーキ入刀以来の共同作業だ。
そのあとは、一緒のソファで休憩をとった。
「貴方、お祖父様との会話聞いてたでしょう?」
「ごめんね、ちょっと不安になっちゃって」
「……忘れて」
「ええ?」
か細い声でそう言って、美麗は顔を両手で隠した。
嶺二は、怒って「忘れなさい!」と強く言われると思っていたこともあり、呆気にとられる。
「あんなに可愛い美麗を忘れられるわけないだろう?」
美麗の両手を顔から引き剥がし、覗き込むように美麗を見つめた。
恥ずかしい美麗は嶺二と視線を合わせない。
「……もう、いいわ。どうせ貴方に隠し事はできないもの」
「ふふ、隠していても僕が暴いてしまうからね」
「ほんっと、貴方って人は……」
真面目な顔をして言う嶺二に、美麗は呆れ気味に顔を上げた。
「私が可愛いものや甘いものが好きってことは、絶対に誰にも言わないでよ?」
「言わないよ。僕だけの秘密にする。そもそも、言うなんて惜しいことするわけないだろう」
「それもそうね」
美麗は嶺二に用意してもらった甘いココアを飲み、一息。
隠し事もなくなったからか、だいぶ嶺二へ隙を見せるようになってきた美麗。
その姿に、嶺二はたまらなく愛おしい気持ちになった。
「美麗、選んでくれてありがとう」
嶺二は、美麗がカップを置いたタイミングで、美麗をおもむろに抱きしめた。突然のスキンシップに美麗は、顔を真っ赤にして動揺。
恐る恐る抱きしめ返し、美麗は嶺二の背中を撫でた。
「……こっちこそ、勝手に結婚させられて悔しかったけど。今は……まぁ、良いわ」
互いに見つめ合い、二人は初めて双方愛のあるキスをしたのだった。