秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜

エピローグ

 時は巡り、あれから一年半。
 彩花は五歳の誕生日を控え、保育園では年中さんクラス。身長も伸びてすっかりお姉さんらしくなった。

 手術の傷跡は今では目立たなくなり、特に大きな問題もなく元気いっぱいに走り回る姿を見ていると、あの日々が遠い昔のことのように思える。

「ふぅ……。ちょっと苦しいな」
 冬の柔らかな日差しが降り注ぐ土曜日。

 私はかかりつけのクリニックで妊婦健診を終えた帰りに、宗一郎さんと彩花と一緒にクリニックのすぐ近くにある総合スーパーへ立ち寄った。
 フードコートは昼時で賑わっていたが、先に来ていた二人が座席を確保してくれていたので、難なく座ることができた。

「ごめん、お待たせ。なんだか緊急オペが入ってたみたいで、その対応で外来が一時的にストップしてたのよ」
「そうか。それは仕方ない」
「ママー! うどんがいい!」
「はいはい、うどんね」

 元気に注文の希望を告げる彩花。
 少し考え込むような仕草を見せながら、私のお腹に視線を向けてきた。

「ママはあかちゃんがいるから、あったかいのがいいんだよね?」
 その気遣いがくすぐったくて、私は思わず笑ってしまう。
 すっかりお姉さんな彩花の姿に感動したのか、宗一郎さんも無言で頭を撫でている。

「そうだねぇ。でも、彩花が食べたいものを食べてもいいんだよ?」
「うーん……」

 出産してから、どうしても彩花に我慢させてしまうこともあるかもしれないと思うと、産まれるまでの今の時期だけでも本人が満足するまで甘やかせたいと思っている。
 彩花は腕を組んでわざとらしく考える仕草をする。

「やっぱりうどんがいいー!」
「そっか。じゃあうどんで決まりね」

「ではまいりましょー! ママはなにがいい? 」
「ママはね、きつねうどんがいいな」
「はーい! パパ、かいにいくよ!」

「はいはい。じゃあパパは天ぷらうどんかな」
「お姉ちゃん。任せたよ」

 小さな手を引かれながら歩いていく宗一郎さんの後ろ姿を眺めていると、胸がじんわりと温かくなる。
 あの人は、ずっと変わらない。穏やかな眼差しで私たちを守り、支えてくれる。

 妊娠してからの体調の変化にも、彼は誰より敏感に気づき、寄り添ってくれた。
 すぐ傍にそんな人がいてくれるのがどれだけありがたくて嬉しくて、心強いか。改めて実感した。
 そんなことを考え始めて五分も経たないうちにお盆にうどんを乗せて持ってききた。
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