秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜
第2話
あの日の再会が、私にとって不幸の始まりだったのかもしれない。
二回目の訪問は、胃がキリキリと痛み、吐き気も襲ってくるほど緊張していた。
でも、宗一郎さんは前回のような核心に迫るようなことは尋ねてこなかった。
その時は過去について聞かれないことに安堵していたはずなのに。
一通り観察を終えると、宗一郎さんと翔太くんはソファに座って談笑している。その様子を遠くから見ていると、まるで何事もなかったかのようだ。
それがかえって、私の心をざわつかせた。
「はぁーっ……」
迫られることもなく三十分の訪問を終えた車内。
次の訪問先へ向かう前に業務用のスマホに業務連絡が来ていないか確認していると、無意識のうちに大きなため息が漏れていた。
過去の罪を追求されないことが、こんなにも辛いなんて。
今回は逆に私が宗一郎さんを意識してしまって、何度も彼の表情を見てしまっていた気がする。
「切り替えよう……」
私は午前の訪問で貰った差し入れの缶のブラックコーヒーを一気に飲み干す。
──俺は……諦めるつもりはない。昔も、今も。
(それじゃあ、あれはなんだったの?)
あの日の彼の言葉や声まで思い出してしまい、はぁー……とまた大きくため息が漏れる。
それでも私はハンドルを握り、次の訪問先へと車を走らせた。
私はいつも通り、バイタル測定、必要な処置やケアをして、記録をしてコミュニケーションをとって……。仕事をこなしていた。
それなのに、ふと彼の低い声を思い出してしまって返答が遅れて慌てる。
集中しなきゃ。そう思えば思うほど、思考が彼に引き戻される。
そんな状態でもプロとして表面にはそんな気持ちが出ないように努めて、今日の訪問を全て終えて事務所に戻った。
「すみません、お先に失礼します。おつかれさまでした」
「はーい、おつかれー」
事務処理をこなし、十八時に間に合うように急いで保育園へお迎えに行く。
これが私の日常だ。
大変だけど、充実した毎日を送っていると思う。
「……よし」
彩花を妊娠してひとりで育てると決め、永徳総合病院を辞めてから私は地元に戻った。
母親には頼れない。
頼んだらきっと協力してくれるだろうけれど、面倒事に巻き込みたくないというのもあった。
しかし、それよりもっと大きな理由は父親の存在を明かせないこと。
そして、私の自分勝手で彼に内緒で産んだ子だから。だからこそ、私がしっかりしなきゃいけないと思っている。
「彩花ちゃんお迎え来たよ〜!」
彩花を迎えに保育園の廊下を通ってクラスまで行くと、クラス担任の先生が彩花に呼びかけてくれた。
「ママー!」
「おかえり〜!」
彩花が私に飛びついてきて、私はしゃがんでぎゅっと抱きしめる。
その笑顔に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
どんなことがあっても、私はこの子のために生きている。そう思えるひととき。
宗一郎さんのことで女性として愛されていた頃の私の心が乱れてしまっていたけれど、今の私には関係のないことだ。
ひとりの女性として自分だけが良ければそれで良かった時代の私のせいで、関係ない彩花を巻き込むわけにはいかない。
私は今、ひとりの「女性」であるより「母」であることを優先すべきだから。
この子の笑顔を守るためなら、私はどんなことだってできる──そう思っていた。
「さ、帰ろうか」
「うん!」
ふたりで一緒にアパートに帰り、夕飯を食べて、お風呂に入る。どうぶつ番組のテレビを見てたくさんおしゃべりをして、寝る前に絵本を読み聞かせながら、穏やかな時間が流れる。
二回目の訪問は、胃がキリキリと痛み、吐き気も襲ってくるほど緊張していた。
でも、宗一郎さんは前回のような核心に迫るようなことは尋ねてこなかった。
その時は過去について聞かれないことに安堵していたはずなのに。
一通り観察を終えると、宗一郎さんと翔太くんはソファに座って談笑している。その様子を遠くから見ていると、まるで何事もなかったかのようだ。
それがかえって、私の心をざわつかせた。
「はぁーっ……」
迫られることもなく三十分の訪問を終えた車内。
次の訪問先へ向かう前に業務用のスマホに業務連絡が来ていないか確認していると、無意識のうちに大きなため息が漏れていた。
過去の罪を追求されないことが、こんなにも辛いなんて。
今回は逆に私が宗一郎さんを意識してしまって、何度も彼の表情を見てしまっていた気がする。
「切り替えよう……」
私は午前の訪問で貰った差し入れの缶のブラックコーヒーを一気に飲み干す。
──俺は……諦めるつもりはない。昔も、今も。
(それじゃあ、あれはなんだったの?)
あの日の彼の言葉や声まで思い出してしまい、はぁー……とまた大きくため息が漏れる。
それでも私はハンドルを握り、次の訪問先へと車を走らせた。
私はいつも通り、バイタル測定、必要な処置やケアをして、記録をしてコミュニケーションをとって……。仕事をこなしていた。
それなのに、ふと彼の低い声を思い出してしまって返答が遅れて慌てる。
集中しなきゃ。そう思えば思うほど、思考が彼に引き戻される。
そんな状態でもプロとして表面にはそんな気持ちが出ないように努めて、今日の訪問を全て終えて事務所に戻った。
「すみません、お先に失礼します。おつかれさまでした」
「はーい、おつかれー」
事務処理をこなし、十八時に間に合うように急いで保育園へお迎えに行く。
これが私の日常だ。
大変だけど、充実した毎日を送っていると思う。
「……よし」
彩花を妊娠してひとりで育てると決め、永徳総合病院を辞めてから私は地元に戻った。
母親には頼れない。
頼んだらきっと協力してくれるだろうけれど、面倒事に巻き込みたくないというのもあった。
しかし、それよりもっと大きな理由は父親の存在を明かせないこと。
そして、私の自分勝手で彼に内緒で産んだ子だから。だからこそ、私がしっかりしなきゃいけないと思っている。
「彩花ちゃんお迎え来たよ〜!」
彩花を迎えに保育園の廊下を通ってクラスまで行くと、クラス担任の先生が彩花に呼びかけてくれた。
「ママー!」
「おかえり〜!」
彩花が私に飛びついてきて、私はしゃがんでぎゅっと抱きしめる。
その笑顔に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
どんなことがあっても、私はこの子のために生きている。そう思えるひととき。
宗一郎さんのことで女性として愛されていた頃の私の心が乱れてしまっていたけれど、今の私には関係のないことだ。
ひとりの女性として自分だけが良ければそれで良かった時代の私のせいで、関係ない彩花を巻き込むわけにはいかない。
私は今、ひとりの「女性」であるより「母」であることを優先すべきだから。
この子の笑顔を守るためなら、私はどんなことだってできる──そう思っていた。
「さ、帰ろうか」
「うん!」
ふたりで一緒にアパートに帰り、夕飯を食べて、お風呂に入る。どうぶつ番組のテレビを見てたくさんおしゃべりをして、寝る前に絵本を読み聞かせながら、穏やかな時間が流れる。