雨の温室に咲く約束
第十一章「捏造」
スマートフォンの画面に表示された写真を見た瞬間、皐月の呼吸が止まった。
ホテルのラウンジ。グラスを手に微笑み合う玲臣と玲奈。
その距離は近く、まるで恋人のようだった。
添えられた文字は無慈悲だった。
「財閥令息・久世玲臣、副社長の本命は許嫁ではなく“親友”」
胸の奥がきゅっと縮む。
——やっぱり、そうなんだ。
玲臣さんの好きな人は……玲奈。
玲奈が“彼には好きな人がいる”と言ったとき、心のどこかで否定したかった。
でも、この写真が証拠のように突きつけられてしまえば。
「……私は、最初から選ばれてなんかいなかったんだ」
呟きは涙に濡れ、誰にも届かない。
翌朝の廊下。
皐月は資料を抱え、足早に歩いていた。
そこへ玲臣が現れ、腕を掴む。
「皐月、待て」
「……」
「昨日の噂、見ただろう」
「……はい」
低く問い詰める声。
皐月は顔を伏せ、唇を震わせた。
「信じたのか」
「……だって、写真に映っていました。玲奈と……あんなに親しそうに」
玲臣の眉が深く寄った。
「お前、本気で俺が玲奈を好きだと思っているのか」
「……ちがうんですか?」
「違うに決まってる!」
怒声が響き、皐月の肩が震える。
「俺が誰を見ているか、ずっと分からなかったのか」
「……私は……親友よりも劣っているんです」
涙が頬を伝い、床に落ちた。
玲臣は絶望したように目を閉じ、低く息を吐いた。
「……どうして、そんなふうに思い込む」
「だって……玲奈が……」
皐月の声はそこで途切れた。
親友の名を口にしてしまえば、友情さえ壊れる気がして。
「ごめんなさい。副社長にとっての“本当の相手”は、私じゃない。だから——」
言い残し、振りほどいて去る。
ヒールの音が遠ざかり、廊下に冷たい沈黙が残った。
残された玲臣は壁に拳を打ちつけた。
「……誰がこんな馬鹿げた嘘を」
怒りは確信に変わる。
仕組んだのは玲奈。
けれど証拠もなく、皐月は親友の言葉を信じている。
窓の外の雨がガラスを叩き、しぶきを散らす。
その音は、彼の焦燥をさらに煽った。
ホテルのラウンジ。グラスを手に微笑み合う玲臣と玲奈。
その距離は近く、まるで恋人のようだった。
添えられた文字は無慈悲だった。
「財閥令息・久世玲臣、副社長の本命は許嫁ではなく“親友”」
胸の奥がきゅっと縮む。
——やっぱり、そうなんだ。
玲臣さんの好きな人は……玲奈。
玲奈が“彼には好きな人がいる”と言ったとき、心のどこかで否定したかった。
でも、この写真が証拠のように突きつけられてしまえば。
「……私は、最初から選ばれてなんかいなかったんだ」
呟きは涙に濡れ、誰にも届かない。
翌朝の廊下。
皐月は資料を抱え、足早に歩いていた。
そこへ玲臣が現れ、腕を掴む。
「皐月、待て」
「……」
「昨日の噂、見ただろう」
「……はい」
低く問い詰める声。
皐月は顔を伏せ、唇を震わせた。
「信じたのか」
「……だって、写真に映っていました。玲奈と……あんなに親しそうに」
玲臣の眉が深く寄った。
「お前、本気で俺が玲奈を好きだと思っているのか」
「……ちがうんですか?」
「違うに決まってる!」
怒声が響き、皐月の肩が震える。
「俺が誰を見ているか、ずっと分からなかったのか」
「……私は……親友よりも劣っているんです」
涙が頬を伝い、床に落ちた。
玲臣は絶望したように目を閉じ、低く息を吐いた。
「……どうして、そんなふうに思い込む」
「だって……玲奈が……」
皐月の声はそこで途切れた。
親友の名を口にしてしまえば、友情さえ壊れる気がして。
「ごめんなさい。副社長にとっての“本当の相手”は、私じゃない。だから——」
言い残し、振りほどいて去る。
ヒールの音が遠ざかり、廊下に冷たい沈黙が残った。
残された玲臣は壁に拳を打ちつけた。
「……誰がこんな馬鹿げた嘘を」
怒りは確信に変わる。
仕組んだのは玲奈。
けれど証拠もなく、皐月は親友の言葉を信じている。
窓の外の雨がガラスを叩き、しぶきを散らす。
その音は、彼の焦燥をさらに煽った。