雨の温室に咲く約束
第十九章「最後の罠」
夜のラウンジ。
静かな照明の下で、琥珀色の液体がグラスに揺れていた。
皐月は、玲奈に呼び出されてそこに座っていた。
「急に呼び出してごめんね。でも……どうしても伝えたいことがあるの」
玲奈は微笑んでいた。
けれどその笑みの奥に潜む影を、皐月は感じ取っていた。
「……なに?」
「皐月。あなた、まだ玲臣さんを信じたいって思ってるでしょ?」
「……」
答えられない沈黙が、すでに答えになっていた。
玲奈はグラスを置き、真っ直ぐに皐月を見つめた。
「でも、彼は結局、私を選ぶわ」
「……っ」
「写真のことも、記事のことも……全部、偶然なんかじゃない。彼は私を庇うために動いてくれてるの」
「……そんなこと……」
「信じたくないんでしょ。でも、事実よ。私、彼から直接言われたもの。“君を放っておけない”って」
玲奈の言葉が鋭い刃のように胸に突き刺さる。
喉が乾き、指先が冷えていく。
「……やっぱり……玲臣さんは……」
皐月の瞳に涙がにじむ。
その瞬間——。
「——嘘を重ねるな」
低い声が背後から落ちた。
振り返ると、ラウンジの入り口に玲臣が立っていた。
黒いコートの裾が揺れ、その瞳は烈火のように鋭かった。
「れ、玲臣さん……!」
「何を言った、玲奈」
玲奈の表情が一瞬で凍る。
皐月は息を呑み、二人の間に挟まれて動けなかった。
「俺がいつ、お前を選ぶと言った?」
玲臣の声は冷たく、はっきりしていた。
「……っ。違うの、私はただ……!」
「お前がしたことはもう全部分かってる。記事を流したのも、皐月に嘘を吹き込んだのも」
玲奈は震え、唇を噛んだ。
「……だって……どうしても、欲しかったの。あなたの隣に立てるのは私だと思ってた」
涙が溢れた。
その涙は、皐月をさらに苦しめた。
「玲臣さん……」
皐月は震える声で呼んだ。
「……全部、本当なの……? 玲奈が嘘を……?」
玲臣は強く頷いた。
「皐月。俺の隣にいるのは、お前以外にありえない」
真っ直ぐな声。
皐月の胸が大きく揺れる。
信じたい——けれど、親友を失う痛みに心が引き裂かれる。
玲奈は嗚咽混じりに笑った。
「皐月。あなたは全部持ってるくせに、まだ彼まで欲しいの?」
「……違う……私は……」
声が震え、涙が止まらない。
友情と愛。
二つの大切なものが、皐月の心を引き裂いていた。
ラウンジの窓を叩く雨が再び強まり、
夜の街に雷鳴が響いた。
——罠は崩れた。
けれど、残された傷は簡単には癒えそうになかった。
静かな照明の下で、琥珀色の液体がグラスに揺れていた。
皐月は、玲奈に呼び出されてそこに座っていた。
「急に呼び出してごめんね。でも……どうしても伝えたいことがあるの」
玲奈は微笑んでいた。
けれどその笑みの奥に潜む影を、皐月は感じ取っていた。
「……なに?」
「皐月。あなた、まだ玲臣さんを信じたいって思ってるでしょ?」
「……」
答えられない沈黙が、すでに答えになっていた。
玲奈はグラスを置き、真っ直ぐに皐月を見つめた。
「でも、彼は結局、私を選ぶわ」
「……っ」
「写真のことも、記事のことも……全部、偶然なんかじゃない。彼は私を庇うために動いてくれてるの」
「……そんなこと……」
「信じたくないんでしょ。でも、事実よ。私、彼から直接言われたもの。“君を放っておけない”って」
玲奈の言葉が鋭い刃のように胸に突き刺さる。
喉が乾き、指先が冷えていく。
「……やっぱり……玲臣さんは……」
皐月の瞳に涙がにじむ。
その瞬間——。
「——嘘を重ねるな」
低い声が背後から落ちた。
振り返ると、ラウンジの入り口に玲臣が立っていた。
黒いコートの裾が揺れ、その瞳は烈火のように鋭かった。
「れ、玲臣さん……!」
「何を言った、玲奈」
玲奈の表情が一瞬で凍る。
皐月は息を呑み、二人の間に挟まれて動けなかった。
「俺がいつ、お前を選ぶと言った?」
玲臣の声は冷たく、はっきりしていた。
「……っ。違うの、私はただ……!」
「お前がしたことはもう全部分かってる。記事を流したのも、皐月に嘘を吹き込んだのも」
玲奈は震え、唇を噛んだ。
「……だって……どうしても、欲しかったの。あなたの隣に立てるのは私だと思ってた」
涙が溢れた。
その涙は、皐月をさらに苦しめた。
「玲臣さん……」
皐月は震える声で呼んだ。
「……全部、本当なの……? 玲奈が嘘を……?」
玲臣は強く頷いた。
「皐月。俺の隣にいるのは、お前以外にありえない」
真っ直ぐな声。
皐月の胸が大きく揺れる。
信じたい——けれど、親友を失う痛みに心が引き裂かれる。
玲奈は嗚咽混じりに笑った。
「皐月。あなたは全部持ってるくせに、まだ彼まで欲しいの?」
「……違う……私は……」
声が震え、涙が止まらない。
友情と愛。
二つの大切なものが、皐月の心を引き裂いていた。
ラウンジの窓を叩く雨が再び強まり、
夜の街に雷鳴が響いた。
——罠は崩れた。
けれど、残された傷は簡単には癒えそうになかった。