雨の温室に咲く約束
第二十章「再びの温室」
夜の庭園はしんと静まり返り、秋の冷たい風が木々を揺らしていた。
遠野家の奥にある温室。その扉の向こうには、雨に濡れた紫陽花と、ガラス越しの月光が待っている。
皐月はゆっくりと扉を押し開けた。
そこに、既に玲臣が立っていた。
背筋を伸ばし、かつて幼い二人が並んだ場所に。
「……皐月」
低く、真っ直ぐな声。
皐月は胸に手を置き、震える呼吸を整えた。
「どうして……ここに」
「終わらせたくなかった。全部の誤解を、この場所で」
玲臣はポケットから一枚の便箋を取り出した。
祖母の手紙だった。
皐月が以前に読んだその文字を、再び目にする。
「祖母は、俺の気持ちを知っていた。俺は子どもの頃から、お前だけを見ていた」
皐月の瞳が揺れる。
信じたい——けれど、これまでのすれ違いと玲奈の言葉が胸を刺す。
「でも……私は、ずっと“玲臣さんには好きな人がいる”って聞かされて……」
「それが玲奈の嘘だ」
「……」
玲臣は一歩近づき、彼女の手をそっと取った。
「皐月。俺の好きな人は最初から一人だけ。お前だ」
皐月の胸に熱いものが込み上げた。
雨の夜、嘘を信じて遠ざけ続けた日々。
玲奈の涙に揺さぶられ、信じられなくなった自分。
——でも今、この温室で向けられる瞳は、嘘じゃない。
「……信じてもいいの?」
「信じろ。俺は何度でも言う。お前が必要だ」
玲臣の声は強く、そして優しかった。
皐月は堪えきれず、涙を零した。
その涙を玲臣が指で拭い取る。
「泣かせたのは、全部俺のせいだ。……すまない」
「違う……私が勝手に信じられなくて……」
言葉は涙に途切れ、やがて彼の胸に飛び込んだ。
抱きしめられた瞬間、長い時間が溶けていく。
冷えきった心に、やっと温もりが戻った。
「皐月。もう二度と離さない」
「……はい」
幼い日に結んだ小さな指切りが、今ようやく果たされる。
皐月は玲臣の胸に顔を埋め、静かに頷いた。
外の夜空には雲間から星がのぞいていた。
長い雨がようやく止み、空はゆっくりと晴れていく。
温室の中で結ばれた二人の想いは、雨上がりの光のように清らかで、揺るぎないものになっていた。
遠野家の奥にある温室。その扉の向こうには、雨に濡れた紫陽花と、ガラス越しの月光が待っている。
皐月はゆっくりと扉を押し開けた。
そこに、既に玲臣が立っていた。
背筋を伸ばし、かつて幼い二人が並んだ場所に。
「……皐月」
低く、真っ直ぐな声。
皐月は胸に手を置き、震える呼吸を整えた。
「どうして……ここに」
「終わらせたくなかった。全部の誤解を、この場所で」
玲臣はポケットから一枚の便箋を取り出した。
祖母の手紙だった。
皐月が以前に読んだその文字を、再び目にする。
「祖母は、俺の気持ちを知っていた。俺は子どもの頃から、お前だけを見ていた」
皐月の瞳が揺れる。
信じたい——けれど、これまでのすれ違いと玲奈の言葉が胸を刺す。
「でも……私は、ずっと“玲臣さんには好きな人がいる”って聞かされて……」
「それが玲奈の嘘だ」
「……」
玲臣は一歩近づき、彼女の手をそっと取った。
「皐月。俺の好きな人は最初から一人だけ。お前だ」
皐月の胸に熱いものが込み上げた。
雨の夜、嘘を信じて遠ざけ続けた日々。
玲奈の涙に揺さぶられ、信じられなくなった自分。
——でも今、この温室で向けられる瞳は、嘘じゃない。
「……信じてもいいの?」
「信じろ。俺は何度でも言う。お前が必要だ」
玲臣の声は強く、そして優しかった。
皐月は堪えきれず、涙を零した。
その涙を玲臣が指で拭い取る。
「泣かせたのは、全部俺のせいだ。……すまない」
「違う……私が勝手に信じられなくて……」
言葉は涙に途切れ、やがて彼の胸に飛び込んだ。
抱きしめられた瞬間、長い時間が溶けていく。
冷えきった心に、やっと温もりが戻った。
「皐月。もう二度と離さない」
「……はい」
幼い日に結んだ小さな指切りが、今ようやく果たされる。
皐月は玲臣の胸に顔を埋め、静かに頷いた。
外の夜空には雲間から星がのぞいていた。
長い雨がようやく止み、空はゆっくりと晴れていく。
温室の中で結ばれた二人の想いは、雨上がりの光のように清らかで、揺るぎないものになっていた。