雨の温室に咲く約束
第五章「消えたメッセージ」
深夜。
都心のビル街はすでに眠りについている。
窓の外にはまだ雨が残り、濡れた路面が街灯を映して淡く光っていた。
玲臣は自室のデスクに腰掛け、スマートフォンを手にした。
数分前から、送信画面を開いたまま。
打ち込んでは消し、また指を走らせる。
——なぜ、避ける。
——お前は本当に、俺から離れたいのか。
胸の奥に溜まる苛立ちと不安を、どう言葉にすればいいのか分からない。
やがて、文字が画面に並んだ。
「皐月。お前が何を考えているのか分からない。
けれど、俺はお前を失いたくない。
明日、話をしよう。逃げずに、正直に答えてほしい」
玲臣は深く息を吐き、送信ボタンを押した。
その頃。
皐月は自室のベッドに身を横たえ、スマートフォンを枕元に置いていた。
画面が点滅するたびに胸がざわめく。
けれど結局、開けずに裏返す。
未読の通知だけが残る。
眠れぬまま、薄暗い天井を見つめていた。
翌朝。
オフィスに出勤した皐月は、ふとスマートフォンを取り出した。
昨日の通知が、消えている。
何度画面をスワイプしても、玲臣からのメッセージは見つからない。
「……あれ?」
胸の奥がひやりと冷える。
彼が送ってくれた言葉を、どうしても読み返したかった。
でも、それはどこにも残っていなかった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
同じ時間。
玲奈はコピー室でひとり、スマートフォンを操作していた。
皐月の共有端末に届いた玲臣のメッセージを、ログインして削除する。
指先が震えた。
罪悪感と、奇妙な高揚感が入り混じる。
「……ごめんね、皐月。でも、彼は私のもの」
誰にも聞こえない囁きが、機械音に紛れて消えていった。
昼下がりの会議室。
玲臣は皐月を見つめながら声を落とした。
「昨日のメッセージ……読んだか?」
「……メッセージ?」
「冗談だろ。長い文を送った」
皐月は目を瞬かせ、首を振った。
「届いていませんでした」
「そんなはずない」
玲臣の声が低く、鋭くなる。
「嘘をついてまで避けたいのか?」
「ち、違います……!」
必死に否定しても、言葉はかき消される。
玲臣の眉間に深い影が刻まれ、苛立ちの気配が漂った。
皐月は俯き、胸の奥が痛みに焼かれるのを感じた。
——本当に届いていなかったのに。
どうして信じてもらえないのだろう。
会議の後、玲臣は一人で窓辺に立っていた。
外には小雨が降り続き、ガラスを曇らせている。
メッセージを消すはずがない。
ならば——皐月は本当に、自分から距離を取ろうとしているのか。
胸の奥に渦巻く疑念は、雨雲のように晴れなかった。
都心のビル街はすでに眠りについている。
窓の外にはまだ雨が残り、濡れた路面が街灯を映して淡く光っていた。
玲臣は自室のデスクに腰掛け、スマートフォンを手にした。
数分前から、送信画面を開いたまま。
打ち込んでは消し、また指を走らせる。
——なぜ、避ける。
——お前は本当に、俺から離れたいのか。
胸の奥に溜まる苛立ちと不安を、どう言葉にすればいいのか分からない。
やがて、文字が画面に並んだ。
「皐月。お前が何を考えているのか分からない。
けれど、俺はお前を失いたくない。
明日、話をしよう。逃げずに、正直に答えてほしい」
玲臣は深く息を吐き、送信ボタンを押した。
その頃。
皐月は自室のベッドに身を横たえ、スマートフォンを枕元に置いていた。
画面が点滅するたびに胸がざわめく。
けれど結局、開けずに裏返す。
未読の通知だけが残る。
眠れぬまま、薄暗い天井を見つめていた。
翌朝。
オフィスに出勤した皐月は、ふとスマートフォンを取り出した。
昨日の通知が、消えている。
何度画面をスワイプしても、玲臣からのメッセージは見つからない。
「……あれ?」
胸の奥がひやりと冷える。
彼が送ってくれた言葉を、どうしても読み返したかった。
でも、それはどこにも残っていなかった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
同じ時間。
玲奈はコピー室でひとり、スマートフォンを操作していた。
皐月の共有端末に届いた玲臣のメッセージを、ログインして削除する。
指先が震えた。
罪悪感と、奇妙な高揚感が入り混じる。
「……ごめんね、皐月。でも、彼は私のもの」
誰にも聞こえない囁きが、機械音に紛れて消えていった。
昼下がりの会議室。
玲臣は皐月を見つめながら声を落とした。
「昨日のメッセージ……読んだか?」
「……メッセージ?」
「冗談だろ。長い文を送った」
皐月は目を瞬かせ、首を振った。
「届いていませんでした」
「そんなはずない」
玲臣の声が低く、鋭くなる。
「嘘をついてまで避けたいのか?」
「ち、違います……!」
必死に否定しても、言葉はかき消される。
玲臣の眉間に深い影が刻まれ、苛立ちの気配が漂った。
皐月は俯き、胸の奥が痛みに焼かれるのを感じた。
——本当に届いていなかったのに。
どうして信じてもらえないのだろう。
会議の後、玲臣は一人で窓辺に立っていた。
外には小雨が降り続き、ガラスを曇らせている。
メッセージを消すはずがない。
ならば——皐月は本当に、自分から距離を取ろうとしているのか。
胸の奥に渦巻く疑念は、雨雲のように晴れなかった。