【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
きっかけの夜
ライザがイグナートとこのような関係を持つようになったのは、約一年前のとある出来事がきっかけだった。
その日、ライザはこれ以上ないほどに落ち込んでいた。
うっかり大きな調合ミスをしてしまい、同僚に多大な迷惑をかけたことがひとつ。それから雨のせいでお気に入りの靴に泥汚れを作ってしまったこと、忙しくて昼食を食べ損ねたこと。
そして何より、定期的に外来にやってきていた患者が亡くなったことが、ライザの心を折れる寸前まで追い詰めた。
その患者は、庭仕事で傷つけた指の傷の治療のため、ライザのもとにやってきた老婦人だった。
次の休暇に孫が遊びに来るので、張り切って庭の手入れをしていたのだと笑顔で語ってくれた。その穏やかな雰囲気に、ライザは亡くなった母を重ねていた。
ライザの治癒の力は決して弱いわけではないのだが、彼女の傷は数回の治療を経てもなかなかよくならなかった。
病気を合併している場合は傷に治癒の力が効きにくいため、医者にかかるよう勧めても、彼女はライザの治癒の力で楽になるからとそれを断っていた。
だが彼女の傷口は炎症を起こし、それが全身に回って亡くなってしまった。医者によると、もともと彼女が患っていた病気の影響で、感染症などに弱い状態だったのだという。
前日には笑顔で帰っていったはずの彼女が、翌日に高熱で倒れてあっけなく逝ってしまったことに、ライザは酷くショックを受けた。
自分がもっと強く医者にかかるよう勧めていれば、もっと治癒の力が強ければ彼女の傷を悪化させる前に治せていたのではと、後悔ばかりが頭をよぎる。
そんなことを考えて落ち込むライザのもとを、聖女ヴェーラが通りかかった。
ライザから話を聞き出した彼女は、悪気なく笑顔でこう言ったのだ。
「自分だったら、そんな傷は一瞬で治せたのに」と。
それは、聖女なりの慰めの言葉だったのだろうとは思う。次からは重傷だと思ったらすぐに自分を呼んでねと言ってくれたのだから。
だけど自らの不甲斐なさに落ち込むライザには、彼女の言葉は胸に突き刺さった。
その日、ライザはこれ以上ないほどに落ち込んでいた。
うっかり大きな調合ミスをしてしまい、同僚に多大な迷惑をかけたことがひとつ。それから雨のせいでお気に入りの靴に泥汚れを作ってしまったこと、忙しくて昼食を食べ損ねたこと。
そして何より、定期的に外来にやってきていた患者が亡くなったことが、ライザの心を折れる寸前まで追い詰めた。
その患者は、庭仕事で傷つけた指の傷の治療のため、ライザのもとにやってきた老婦人だった。
次の休暇に孫が遊びに来るので、張り切って庭の手入れをしていたのだと笑顔で語ってくれた。その穏やかな雰囲気に、ライザは亡くなった母を重ねていた。
ライザの治癒の力は決して弱いわけではないのだが、彼女の傷は数回の治療を経てもなかなかよくならなかった。
病気を合併している場合は傷に治癒の力が効きにくいため、医者にかかるよう勧めても、彼女はライザの治癒の力で楽になるからとそれを断っていた。
だが彼女の傷口は炎症を起こし、それが全身に回って亡くなってしまった。医者によると、もともと彼女が患っていた病気の影響で、感染症などに弱い状態だったのだという。
前日には笑顔で帰っていったはずの彼女が、翌日に高熱で倒れてあっけなく逝ってしまったことに、ライザは酷くショックを受けた。
自分がもっと強く医者にかかるよう勧めていれば、もっと治癒の力が強ければ彼女の傷を悪化させる前に治せていたのではと、後悔ばかりが頭をよぎる。
そんなことを考えて落ち込むライザのもとを、聖女ヴェーラが通りかかった。
ライザから話を聞き出した彼女は、悪気なく笑顔でこう言ったのだ。
「自分だったら、そんな傷は一瞬で治せたのに」と。
それは、聖女なりの慰めの言葉だったのだろうとは思う。次からは重傷だと思ったらすぐに自分を呼んでねと言ってくれたのだから。
だけど自らの不甲斐なさに落ち込むライザには、彼女の言葉は胸に突き刺さった。