【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

これが最後だから

「ライザ……」

 何度も名前を呼びながら、イグナートが唇を重ねてくる。呼吸を乱しつつ、ライザは彼のキスに応えた。優しく重ねるだけのキスも、深く舌を絡めあうキスも、ライザの快楽を呼び起こしていく。

 性急な手つきで制服のボタンを外され、胸当てを引き下ろされる。

 こんなところで抱かれるなんてと思うけれど、これが最後なのだから構わないという気持ちもある。思わず抱きつくと、イグナートはそれに応えるように強く抱きしめてくれた。



 やがて、イグナートが荒い息を吐きながら上体を起こす。離れていったぬくもりをさみしく思いながら、ライザは彼をぼんやりと見上げた。

 まるで別れを惜しむように何度も身体を重ねてしまったが、もうこれですべてが終わりだ。

「起きられるか、ライザ」

「ん……大丈夫」

 時計を見れば、もう随分長い時間を過ごしていたことに気づく。早く、仕事に戻らねばならない。

 怠いのを堪えて、ライザは身体を起こした。激しく抱かれたせいで腰のあたりが重たくてたまらないけれど、それに耐えて乱れた服装を整えていく。あとでこっそり回復薬を調合して飲まないと、仕事にならないかもしれない。

 よろめきながら立ち上がったライザを、イグナートがうしろから抱きしめた。耳元に、彼の熱い吐息がかかる。

「どうしたの、イグナート」

「ライザと離れたくない。旅になんか……行きたくない」

 珍しく気弱な声でそんなことを言う彼に、ライザは小さく笑った。

「もう、しっかりして、騎士団長様。浄化の旅がどれほど重要なものかは、イグナートだって知っているはずでしょう。怪我のないように、気をつけてね。旅の安全を、ずっと祈っているわ」

「必ず戻るから……待っていてくれるか」

 耳元で囁かれた声に、ライザは一瞬息を止めた。だけど、勘違いしてはならないと言い聞かせてゆっくりと息を吐く。

 浄化の旅は危険を伴うことも多い。無事に戻るためには、待っている人の存在が大事なのだろう。

 そう考えたライザは、うしろから抱きしめるイグナートの手をそっと握った。

「えぇ、待ってるわ。だから、無事に帰ってきてね」

 顔を見られていなくてよかったと思いながら、ライザは努めて明るい声を出す。しばらく黙っていたイグナートは、やがてライザの耳元に一度口づけると、分かったと言ってうなずいた。

「じゃあ、私……もう仕事に戻らなくちゃ」

 部屋を出ようとしたライザの腕を、イグナートは笑いながら掴んだ。何事かと首をかしげると、彼は悪戯っぽい表情でライザの顔をのぞき込む。

「今日はもう業務終了だから、直帰していいはずだ。浄化の旅に必要な物品を届けてもらう名目で、終業時間までライザの時間を俺が押さえたから」

「え? いつの間に」

「しばらく会えなくなるんだし、こういう職権乱用くらい許されるだろ」

 それに、とつぶやいてイグナートはライザの耳元に再び唇を寄せた。

「今抱かれてきました、みたいな色っぽい顔、誰にも見せたくないんだ。だから職場には帰さない」

「……っ」

 ライザは慌てて自分の頬に手を当てる。イグナートと親密な時間を過ごしたことが、顔に出てしまっているのだろうか。

「家まで送る。少しでもライザと一緒にいたいしな」

 そう言ってイグナートはライザに手を差し出した。
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