【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

これでよかった

 城からライザの家までは徒歩でもそう遠くないが、疲れてふらつくライザを見て、イグナートが馬車で送ってくれることになった。辻馬車に乗るつもりだったのに、リガロフ家の馬車に乗せられて、ライザは戸惑いっぱなしだ。二人が一緒にいるところを見られたら、この関係が周囲にバレてしまうかもしれないのに。

 やっぱり一人で帰れると訴えたものの、イグナートは心配だからと聞き入れてくれなかった。

 誰かに見られたら、体調を崩したところを送ってもらったと言い訳をしようと決めて、ライザは渋々馬車に乗った。

 リガロフ家の馬車はとても立派で、座席も広い。それなのに、イグナートはライザの隣に座って腰を抱いている。

「ひ、一人で座れるわよ……」

「ちょっと無理させたからな。疲れてるだろうし、寄りかかっていればいい」

 そう言ってイグナートの腕が強く腰を抱き寄せる。彼と触れあうのもこれが最後なのだからと内心でつぶやいて、ライザはイグナートの肩にもたれかかった。 

「仕事は大丈夫なの?」

「あぁ。今日は引き継ぎ業務と部屋の片付けだけだから。夜には最終の打ち合わせがあるが、それまでは束の間の自由時間だ」

 そんな時間をライザと過ごしていいのだろうかと思いつつも、ライザもイグナートと離れがたい気持ちはあるので、黙ってうなずく。

 疲れていたのか、ライザはいつの間にか眠っていた。軽く肩を揺すられて目を開けると、イグナートが顔をのぞき込んでいた。

「着いたぞ。起きられるか」

「あ……ごめんなさい、乗り心地がよくて、つい」

「いや、俺も無理をさせたから。立てるか? 辛いなら抱き上げて部屋まで連れて行こう」

 その言葉にちらりと窓の外に目を向けると、ライザの家のすぐそばに馬車は停まっていた。リガロフ家の馬車は、ここでは目立つ。ライザは慌てて立ち上がった。

「だ、大丈夫よ。イグナートは仕事に戻らなくちゃいけないでしょう。送ってくれてありがとう」

「うん。最後にライザと一緒にいられてよかった」

 名残惜しそうに、イグナートはライザの手を握る。ずっとこうしていたい気持ちは同じだが、ライザはそれが許される立場ではない。

「気をつけてね。……行ってらっしゃい」

 囁くようにそう言って、ライザは握られた手をそっと離す。そしてイグナートに背を向けた。

 振り向かずに早足で立ち去ったのは、あれ以上一緒にいたら泣いてしまいそうだったからだ。

 部屋の窓からイグナートを乗せた馬車が去っていくのを見送って、ライザは大きなため息をついた。

「さて、疲れたし今日はお酒を飲んじゃおうかな」

 沈む心を奮い立たせるように、ライザは意識して明るい声でつぶやいた。
< 17 / 82 >

この作品をシェア

pagetop