【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

旅の終わり

 双子を寝かしつけたら、ようやく一人の時間だ。ライザは熱いお茶を淹れると、鞄の中から新聞を取り出した。週に一度、職場に届けられるものを一部もらってきたのだ。

 王都から距離があるため、情報は少し遅れているが、それでもイグナートがどうしているのかを知る手段はこれだけだ。

 未練がましいと思いつつも、ライザは彼の情報を収集することをやめられずにいた。

 新聞を開けばすぐに愛しい人の名前を見つけて、ライザは一瞬だけ息を止める。

「……あぁ、浄化の旅は無事に終わったのね」

 記事に書かれたイグナートの名前を指先でなぞって、ライザは小さく微笑んだ。

 もう会うことはないけれど、彼の旅が無事に終わるかどうかはずっと気にしていた。近いうちに王都に帰還するだろうという噂は聞いていたけれど、記事によれば先月聖女と共に戻ってきたようだ。

 来月には盛大な祝賀パレードが開催され、そこで聖女と騎士の婚約が発表されるのではないかと書いてある。

「お似合いの二人だもの。大丈夫、祝福できるわ」

 つぶやいてみても、胸が苦しい。いつまでたっても、ライザはイグナートのことを忘れられない。

 彼とヴェーラが結ばれると考えただけで、息ができなくなりそうだ。深く息を吐いて落ち着こうとするものの、みるみるうちに涙で視界が歪んでいく。

「もう会えないんだから。いつまでも引きずっていてはだめだわ。しっかりしなくちゃ」

 滲んだ涙を乱暴に拭って、ライザはぐっと口角を上げた。

 その時、隣の部屋でアーラの声が微かに聞こえた。ライザは新聞を畳むと、急いで立ち上がった。

「どうしたの、アーラ。起きちゃった?」

「おちゃ、のむの」

「あぁ、喉が渇いたのね」

 ぐっすり眠っているパーヴェルを起こさないように気をつけながら、ライザはアーラを抱き上げた。半覚醒といった様子のアーラは、目を擦りつつライザの肩にこてんと顔を乗せた。

 本当は椅子に座らせてからお茶を注ぎたいところだけど、寝起きのアーラは機嫌が悪くなりやすい。先日も真夜中に二時間ほど泣かれて大変だったのだ。アーラが泣けば、もれなくパーヴェルも泣き始めるから。

 片手で我が子を抱いたまま、ライザはコップにお茶を注ぐ。

「アーラ、自分で飲める?」

「ん」

 こくんとうなずいて、アーラはコップを両手で抱えるようにしてお茶を飲み始めた。丸っこい手の可愛らしさに、ライザは小さく微笑む。

 二人の髪色は、イグナートと同じ淡い金色だ。顔はよく似ている双子だが、瞳の色は違う。パーヴェルはライザと同じ緑の瞳、アーラはイグナートと同じ青い瞳をしている。我が子ながら二人の顔立ちは整っていて、ライザは密かに将来を楽しみにしている。きっと美男美女に育つに違いない。

 避妊薬の飲み忘れで妊娠が分かった時はどうしようと思ったが、この子たちを授かることができたのは幸せだと、今では胸を張って言える。イグナートに会うことはできないけれど、ライザが精一杯愛情を注いで二人を育てると決めている。
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