【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
まだ忘れられない
イグナートが王都に帰還したことを知って以来、ライザは以前にも増して彼の情報に気をつけるようになった。
知れば傷つくことが分かっているのに、聖女ヴェーラとイグナートの婚約に関する情報がいつ流れてくるのかと、気になって仕方がない。
今日もまた、ライザは双子を寝かしつけたあとに新聞を開いた。隅々まで読み込んで、目当ての名前がないことに大きなため息をつく。イグナートの名前を見つけたいような、見つけたくないような、複雑な心境だ。
聖女の功績を讃える記事はあったが、イグナートに関する記載はなかった。もちろん、二人の婚約についても書かれていない。護衛騎士が聖女を守るために奮闘したというのは、イグナートのことなのだろうか。
そろそろ、王都では聖女の帰還を祝うパレードが開催される頃のはずだ。
パレードを見に行けば、遠目でもイグナートの顔を見ることができるかもしれない。
そんなことを考えて、ライザは苦い笑みを浮かべた。
「本当に、未練がましくて嫌になるわね。もう会わない……いいえ、会えないって分かってるのに」
その時、ふと泣き声が聞こえた気がしてライザは慌てて寝室をのぞき込んだ。
「……いや! いや、なの……」
何か夢を見ているのか、パーヴェルが怒ったような声をあげている。泣き声だと思ったのは、どうやらパーヴェルの寝言だったようだ。寝言まで「いや」だなんて、徹底している。
最近の二人は、口を開けば「いや!」なのだ。せめて二人で同じことに嫌だと言ってくれればいいのに、アーラは食事が気に入らない、パーヴェルは着替えをしたくない、と全く違うことに怒ってばかりいる。
片方をなだめているうちにもう片方の機嫌が悪くなり、なんだか分からないうちに二人とも泣き始める。抱っこをしてみたり、お菓子で機嫌を取ったりしつつ、泣き止まない二人と一緒に泣きたくなることもある。
それでも、やっぱり我が子はなによりも可愛い。
同じ格好をして眠る双子を見れば、その愛おしさに身悶えしたくなる。眠っていれば、本当に天使だ。
柔らかな金の髪をそっと撫でて、ライザは二人の眠るベッドに横になる。
「……いつか、父親がいないことに気づく日が来るわよね」
ため息まじりにライザはつぶやいた。
ライザが未婚の母であることは、隣人のタマラも知っている。なにか事情があるのだろうと、彼女は父親の行方について聞いてこない。職場でも、夫と離縁したのだとそれとなく説明すれば、それ以上深く突っ込まれることはなかった。
でも、子供達にはいつか説明しなければならない時が来る。
もちろんイグナートが父親であることは明かせないが、二人にも父親という存在がいること、事情があって会うことはできないけれど、その分母親のライザが二人を愛し、ちゃんと育てるからと話さねばならない。
「身勝手な母親で、ごめんね。だけど、あなたたちを産んだことを後悔したことは、一度だってないのよ」
二人の頬にそれぞれキスをして、ライザは毛布に包まると目を閉じた。
知れば傷つくことが分かっているのに、聖女ヴェーラとイグナートの婚約に関する情報がいつ流れてくるのかと、気になって仕方がない。
今日もまた、ライザは双子を寝かしつけたあとに新聞を開いた。隅々まで読み込んで、目当ての名前がないことに大きなため息をつく。イグナートの名前を見つけたいような、見つけたくないような、複雑な心境だ。
聖女の功績を讃える記事はあったが、イグナートに関する記載はなかった。もちろん、二人の婚約についても書かれていない。護衛騎士が聖女を守るために奮闘したというのは、イグナートのことなのだろうか。
そろそろ、王都では聖女の帰還を祝うパレードが開催される頃のはずだ。
パレードを見に行けば、遠目でもイグナートの顔を見ることができるかもしれない。
そんなことを考えて、ライザは苦い笑みを浮かべた。
「本当に、未練がましくて嫌になるわね。もう会わない……いいえ、会えないって分かってるのに」
その時、ふと泣き声が聞こえた気がしてライザは慌てて寝室をのぞき込んだ。
「……いや! いや、なの……」
何か夢を見ているのか、パーヴェルが怒ったような声をあげている。泣き声だと思ったのは、どうやらパーヴェルの寝言だったようだ。寝言まで「いや」だなんて、徹底している。
最近の二人は、口を開けば「いや!」なのだ。せめて二人で同じことに嫌だと言ってくれればいいのに、アーラは食事が気に入らない、パーヴェルは着替えをしたくない、と全く違うことに怒ってばかりいる。
片方をなだめているうちにもう片方の機嫌が悪くなり、なんだか分からないうちに二人とも泣き始める。抱っこをしてみたり、お菓子で機嫌を取ったりしつつ、泣き止まない二人と一緒に泣きたくなることもある。
それでも、やっぱり我が子はなによりも可愛い。
同じ格好をして眠る双子を見れば、その愛おしさに身悶えしたくなる。眠っていれば、本当に天使だ。
柔らかな金の髪をそっと撫でて、ライザは二人の眠るベッドに横になる。
「……いつか、父親がいないことに気づく日が来るわよね」
ため息まじりにライザはつぶやいた。
ライザが未婚の母であることは、隣人のタマラも知っている。なにか事情があるのだろうと、彼女は父親の行方について聞いてこない。職場でも、夫と離縁したのだとそれとなく説明すれば、それ以上深く突っ込まれることはなかった。
でも、子供達にはいつか説明しなければならない時が来る。
もちろんイグナートが父親であることは明かせないが、二人にも父親という存在がいること、事情があって会うことはできないけれど、その分母親のライザが二人を愛し、ちゃんと育てるからと話さねばならない。
「身勝手な母親で、ごめんね。だけど、あなたたちを産んだことを後悔したことは、一度だってないのよ」
二人の頬にそれぞれキスをして、ライザは毛布に包まると目を閉じた。