【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
再会
「――ライザ?」
「……!」
その声を耳にした瞬間、ライザは雷に打たれたように動けなくなってしまう。
忘れようとしても忘れられなかった、低く優しい声。
まさか、ありえない、今すぐここから逃げなければと頭の中では思うのに、身体が動かない。
凍りついたように動きを止めるライザの耳に、近づいてくる靴音が聞こえた。
じっと地面を見つめるライザのすぐそばに、黒い人影がやってきた。ゆっくりと顔をのぞき込まれ、目を合わせまいとライザは必死に視線を逸らす。
きっと目を合わせたら、泣いてしまう。ずっと会いたかった人――イグナートがここにいるのだから。
「ライザ」
「どなたかと勘違いされているのでは」
再び名前を呼ぶ優しい声に、胸が詰まる。それでも、ライザは視線を逸らしたまま硬い口調で答えた。
だが、イグナートはフッと小さく笑うとライザの耳元に顔を寄せた。
「きみは、ライザ・アントノーヴァ伯爵令嬢で間違いないだろう。右の手首の内側にあるほくろに、見覚えがある」
「……っ」
慌てて左手で右手首を覆うが、その行動は自分がライザ・アントノーヴァだと認めているも同然だ。その仕草を見て、イグナートも確信を得たようにライザの腕を掴んだ。決して痛くはないが、振りほどくことができない強さで、逃げられないと本能的に感じる。
おずおずと視線を上げれば、イグナートがじっとこちらを見ていた。
黒い騎士服に身を包んだその姿は、ライザの記憶の中と同じだ。頬から顎にかけての線がやや鋭くなったように感じるのは、厳しい旅路で少し痩せたからなのだろうか。
精悍な顔つきだけど、青い瞳はどこまでも優しい。またこの瞳に映る日が来るなんて、思いもしなかった。
「ずっと探していたんだ。旅から戻ったら、ライザが仕事を辞めたと聞いて……」
今更取り繕っても仕方ないだろうと、ライザは人違いで乗り切ることを諦める。だが、イグナートとこれ以上話をするつもりはない。
「もう、あなたには関係のないことよ。手を離して」
平坦な声でそう告げるが、掴まれた手は揺るがない。騎士服を着た男が女性の腕を掴んでいる状況は、周囲にどのように映るだろう。遠巻きに見守る人々のざわめきに不穏なものを感じ取って、ライザは早くこの場を立ち去らなければと焦る。
「ライザ、この数年の間に、きみになにがあったのか知りたい。だからどこかで話を」
「必要ないわ」
イグナートの言葉を途中で遮って、ライザは強い口調で言い捨てる。イグナートは久しぶりに会ったセフレに懐かしい気持ちになったのかもしれないが、これ以上彼の前にいたら、冷静さを保てない。
再び彼の手を振りほどこうとした時、子供たちの声がした。
「……!」
その声を耳にした瞬間、ライザは雷に打たれたように動けなくなってしまう。
忘れようとしても忘れられなかった、低く優しい声。
まさか、ありえない、今すぐここから逃げなければと頭の中では思うのに、身体が動かない。
凍りついたように動きを止めるライザの耳に、近づいてくる靴音が聞こえた。
じっと地面を見つめるライザのすぐそばに、黒い人影がやってきた。ゆっくりと顔をのぞき込まれ、目を合わせまいとライザは必死に視線を逸らす。
きっと目を合わせたら、泣いてしまう。ずっと会いたかった人――イグナートがここにいるのだから。
「ライザ」
「どなたかと勘違いされているのでは」
再び名前を呼ぶ優しい声に、胸が詰まる。それでも、ライザは視線を逸らしたまま硬い口調で答えた。
だが、イグナートはフッと小さく笑うとライザの耳元に顔を寄せた。
「きみは、ライザ・アントノーヴァ伯爵令嬢で間違いないだろう。右の手首の内側にあるほくろに、見覚えがある」
「……っ」
慌てて左手で右手首を覆うが、その行動は自分がライザ・アントノーヴァだと認めているも同然だ。その仕草を見て、イグナートも確信を得たようにライザの腕を掴んだ。決して痛くはないが、振りほどくことができない強さで、逃げられないと本能的に感じる。
おずおずと視線を上げれば、イグナートがじっとこちらを見ていた。
黒い騎士服に身を包んだその姿は、ライザの記憶の中と同じだ。頬から顎にかけての線がやや鋭くなったように感じるのは、厳しい旅路で少し痩せたからなのだろうか。
精悍な顔つきだけど、青い瞳はどこまでも優しい。またこの瞳に映る日が来るなんて、思いもしなかった。
「ずっと探していたんだ。旅から戻ったら、ライザが仕事を辞めたと聞いて……」
今更取り繕っても仕方ないだろうと、ライザは人違いで乗り切ることを諦める。だが、イグナートとこれ以上話をするつもりはない。
「もう、あなたには関係のないことよ。手を離して」
平坦な声でそう告げるが、掴まれた手は揺るがない。騎士服を着た男が女性の腕を掴んでいる状況は、周囲にどのように映るだろう。遠巻きに見守る人々のざわめきに不穏なものを感じ取って、ライザは早くこの場を立ち去らなければと焦る。
「ライザ、この数年の間に、きみになにがあったのか知りたい。だからどこかで話を」
「必要ないわ」
イグナートの言葉を途中で遮って、ライザは強い口調で言い捨てる。イグナートは久しぶりに会ったセフレに懐かしい気持ちになったのかもしれないが、これ以上彼の前にいたら、冷静さを保てない。
再び彼の手を振りほどこうとした時、子供たちの声がした。