【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

彼とのこと

 イグナートは、追ってこなかった。

 真面目な騎士団長である彼が、仕事を途中で放り出すはずがない。

 もう会いたくないのに、彼に会えたことは胸が苦しくなるほど嬉しかった。

 だけど、追いかけてくるほどの想いはやはりなかったのだなという複雑な気持ちが入り交じる。



 ホルムの町へ戻る道中、タマラはなにも聞いてこなかった。さすがに双子の前でする話ではないと配慮してくれたのかもしれない。それでも時折、物言いたげな視線を向けられているようで、ライザは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 発つのが遅くなったため、家に帰り着く頃には真夜中近くになっていた。疲れて眠る子供たちを寝室に運び、ライザはタマラを振り返る。

「すっかり遅くなっちゃったわね。ライザちゃんも、早く休んで」

「はい。あの、今日のこと……」

 イグナートのことを説明した方がいいような気がするが、なにを言えばいいのか分からない。

 言葉を探して黙りこくったライザの肩を、タマラは優しく叩いた。

「ジョレスがね、双子ちゃんたちのためにブランコを作ったの。明日はぜひ、あの子たちに遊びに来てもらえたら嬉しいわ」

 ジョレスが双子の面倒を見ていてくれる間に、話をしようということなのだろう。

 ライザは、黙ってうなずいた。
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