【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

話しあい

「どうして……」

 驚きに目を見開いて固まるライザの足元から、双子が顔をのぞかせた。それに気づいたイグナートが、表情を緩める。

 だがそれとは反対に双子の口角は下がり、目にはみるみるうちに涙が盛り上がった。大好きな隣人だと思ったら見知らぬ人だったので、驚きと戸惑いで混乱してしまったのだろう。

「ふぇ……」

 泣き声をあげてライザの脚に抱きついたアーラとは対照的に、パーヴェルは大きな目に涙を溜めながらも唇を引き結んで前に出た。

「わるもの、だめ! いらない!」

 幼い語彙で必死に拒絶の言葉を叫びながら、パーヴェルは両手でイグナートを押しやる。騎士であるイグナートが幼児の力に負けるはずはないのだが、彼は一歩うしろに下がった。

 一生懸命に家族を守ろうとしてくれたパーヴェルに感激しながらも、ライザは可愛い我が子たちを抱き上げた。

「アーラ、パーヴェル、大丈夫よ。この人は、悪い人ではないわ」

「わるもの、ちがう?」

「こわくない?」

「えぇ、平気よ」

 安心させるようにぎゅっと抱きしめて、ライザはイグナートを見上げた。どうしてここを突き止めたのかは不明だが、このまま追い返すわけにはいかないだろう。

「……ひとまず、あなたは家の中で待っていて。子供たちを預けてくるから」

「子供たちに、俺のことを紹介してくれないのか」

「その必要は、ないわ」

 短く返事をして、ライザは表情を切り替えると双子の顔をのぞき込んだ。 

「ママはちょっとご用事があるから、タマラさんのお家でお留守番できる?」

「だいじょぶ!」

「できるよ!」

 キリッとした表情で手を上げた二人に笑いかけて、ライザはタマラの家を訪ねた。

 イグナートが訪ねてきたので今から話をすると伝え、子供たちを見ていてほしいと頼む。タマラが同席を申し出るのを断って、ライザは頭を下げた。

「ひとまず、二人で話をしてみます」

「分かったわ。なにかあればすぐに呼んで。……念のために確認なんだけど、暴力に訴えるような人ではないのよね?」

「それはないと断言できます」

 まだ心配そうなタマラに、ライザは安心させるように笑顔を見せた。

「しっかりね。丸め込まれそうになったら、わたしが間に入るからね」

「はい。困った時は、頼るかもしれません」

 もう一度深く頭を下げて、ライザは自宅に戻った。イグナートは家の中に入らず、扉の前で待っていた。そんなところは律儀な彼らしいなと、ほんの少し懐かしい気持ちが湧き上がる。
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