【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

誤解を解いて

「また、前みたいな関係に戻りたいってこと? 悪いけど、それは無理だわ。私にはもう、守るべき子供たちがいるの。セフレが欲しいのなら、他を当たって。あなたなら、喜んで手を挙げる女性がたくさんいるでしょう」

 そっけない言い方になってしまったが、あの時とは全てが違いすぎる。

 少し言い過ぎただろうかと内心反省しつつイグナートの顔を見ると、彼は意味が分からないといった表情を浮かべていた。

「え……っと、あの、ライザ。きみの口から信じがたい言葉が飛び出した気がするんだが。セフレって……」

「何を今更なことを言ってるの? 三年前の私とあなたの関係は、一般的にそう呼ばれるものだと思っていたけど」

「えっ、どうして。俺たち、恋人同士だっただろう」

「は……?」

 今度はライザが目を丸くする番だ。あの日々は、ただお互いの欲望を解消するだけの関係だったはずだ。ライザはイグナートに想いを告げたことは一度だってないし、彼もそうだ。恋人になった記憶なんてない。

 ライザの表情を見て、イグナートはしばらく硬直していたが、やがて動揺したように視線を泳がせた。

「待って、ライザ。一旦、情報を整理させて。俺たちは確かに付き合っていたはずだ。セフレだなんて、思ったこともない。どこからそんな発想が出てくるんだ」

「付き合ってた……って、別の誰かと勘違いしているんじゃないの?」

「あの時も今も、俺にはライザしかいない。一番最初の晩に俺が告白して、きみはうなずいてくれただろう。家のことがあるから、付き合うことは公にしたくないって言ったから、外では他人行儀に振る舞っていたが」

 イグナートの言葉に、ライザは激しく目を瞬いた。告白された記憶なんてないし、付き合うことになった話なんてした覚えがない。

「え、え……? 待って、そんな記憶ない。でもそうだわ、あの時は私、すごく酔ってて……」

 話しているうちに、あの夜のことが鮮明になっていく。

 自分の不甲斐なさに落ち込んで、酒場で慣れないお酒をたくさん飲んだ。それを止めてくれたのがイグナートで、酔った勢いで散々愚痴を聞いてもらい、彼を家に連れ帰った。

 そして、ライザはイグナートに抱かれたのだ。

 だが、ライザの家に着いてからのことがほとんど思い出せない。

 優しく抱いてもらったことや、初めてのはずなのに快楽に溺れたこと、耳元で感じるイグナートの吐息がとても色っぽかったことは覚えているのに、どんな会話を交わしたのかが分からない。

 ライザの表情を見て、本当に覚えていないことを理解したのだろう。イグナートは額を押さえて深く息を吐いた。
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