【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
今日からはずっと一緒
そして十日後、朝早くにイグナートが訪ねてきた。その表情は明るく、浮かれているように見える。
「おはよう、ライザ。アーラとパーヴェルも、おはよう。早く会いたくて、こんな時間に着いてしまった。うちの親もライザたちに早く会いたくて、うずうずしているぞ」
ご機嫌なイグナートの言葉に、ライザはこっそり安堵のため息をついた。どうやらリガロフ家は、ライザたちを受け入れてくれるようだ。
床に膝をつき、両手を広げて子供たちを抱きしめようとしたイグナートだったが、双子は戸惑った表情で顔を見合わせている。二歳児にとって、十日前はかなり昔だ。もしかしたら、イグナートのことはすっかり忘れてしまっているかもしれない。
ライザは、二人の耳元でそっと囁いた。
「アーラ、パーヴェル。お父さんよ」
「……おとーしゃん?」
揃って首をかしげた双子は、しばらくしてぱぁっと顔を輝かせた。記憶を探り当てた様子がよく分かって、微笑ましい。
「おとーしゃん!」
駆け出したアーラがイグナートの腕の中にぽすんと飛び込む。小さなぬくもりに、イグナートの表情が更に柔らかくなった。
少し遅れてパーヴェルもイグナートに飛びつく。アーラよりも力強い重みに、イグナートが嬉しそうに目を細めた。
双子を両手で抱き上げたイグナートは、ライザの方を見る。目が合うと、彼はゆっくりと近づいてきた。子供たちに向けるものとはまた違った表情に、ライザの胸が小さく跳ねた。
「会いたかった、ライザ。この十日間が、どんなに長く感じたことか。今日からはずっと一緒にいられる」
「ずっといっしょ?」
「あぁ。パーヴェルもアーラも、ずっと一緒だ」
パーヴェルの問いかけにイグナートがうなずくと、双子は「いっしょ!」とはしゃぐ。
「ママも!」
アーラの呼びかけに引き寄せられて近づくと、小さな手がそれぞれライザを抱きしめるように伸ばされた。家族四人で抱きあうような形に、ライザは胸がいっぱいになるのを感じた。
「荷物はこれだけか? まぁ、必要な物があれば向こうで買えばいいか。うちの母はすでに、子供たちの服やおもちゃをあれこれリストアップしていたぞ」
「あのね、実は家をまだ引き払っていないの。その、もしもリガロフ家の皆様に受け入れてもらえなかったら、帰る場所がなくなるのは困ると思って……」
もごもごとそう口にしたライザに、イグナートは分かっているとうなずいた。
「突然のことだったし、焦らせて申し訳なかったとあとから反省したよ。俺も、ここを引き払う必要はないと思ってるんだ。タマラさんたちにもまた会いに来たいし、子供たちの育った家を失くすことはしたくないから」
「うん、ありがとう」
イグナートの気遣いに感謝しながら、ライザは荷物を詰めたトランクを持つ。
家の前には、リガロフ家の大きな馬車が停まっていて、様子を見に来てくれたらしいタマラとジョレスもその立派さに目を見開いている。
「本当に、貴族なのねぇ……。こんな立派な馬車、初めて見たわ」
「辻馬車を乗り継ぐよりも、こちらの方が速いし子供たちの負担も少ないですから」
ぽかんと口を開けたままのタマラに笑いかけながら、イグナートが子供たちを馬車に乗せた。乗り物が大好きな双子は、目を輝かせて馬車の中を見回している。
「ライザと子供たちのこと、本当にお世話になりました。落ち着いたら、ぜひ遊びにいらしてください。子供たちも、きっと喜びます」
「えぇ、そうね。ライザちゃんも、元気でね。預かっている辞表は、わたしが出しておくわね。王都に行くときは声をかけるから、また会いましょう」
「はい、ぜひ」
隣人と固い握手を交わして、ライザも馬車に乗り込んだ。こんな立派な馬車に乗るのは、イグナートと最後に過ごした日、彼に送ってもらった時以来だ。
「おはよう、ライザ。アーラとパーヴェルも、おはよう。早く会いたくて、こんな時間に着いてしまった。うちの親もライザたちに早く会いたくて、うずうずしているぞ」
ご機嫌なイグナートの言葉に、ライザはこっそり安堵のため息をついた。どうやらリガロフ家は、ライザたちを受け入れてくれるようだ。
床に膝をつき、両手を広げて子供たちを抱きしめようとしたイグナートだったが、双子は戸惑った表情で顔を見合わせている。二歳児にとって、十日前はかなり昔だ。もしかしたら、イグナートのことはすっかり忘れてしまっているかもしれない。
ライザは、二人の耳元でそっと囁いた。
「アーラ、パーヴェル。お父さんよ」
「……おとーしゃん?」
揃って首をかしげた双子は、しばらくしてぱぁっと顔を輝かせた。記憶を探り当てた様子がよく分かって、微笑ましい。
「おとーしゃん!」
駆け出したアーラがイグナートの腕の中にぽすんと飛び込む。小さなぬくもりに、イグナートの表情が更に柔らかくなった。
少し遅れてパーヴェルもイグナートに飛びつく。アーラよりも力強い重みに、イグナートが嬉しそうに目を細めた。
双子を両手で抱き上げたイグナートは、ライザの方を見る。目が合うと、彼はゆっくりと近づいてきた。子供たちに向けるものとはまた違った表情に、ライザの胸が小さく跳ねた。
「会いたかった、ライザ。この十日間が、どんなに長く感じたことか。今日からはずっと一緒にいられる」
「ずっといっしょ?」
「あぁ。パーヴェルもアーラも、ずっと一緒だ」
パーヴェルの問いかけにイグナートがうなずくと、双子は「いっしょ!」とはしゃぐ。
「ママも!」
アーラの呼びかけに引き寄せられて近づくと、小さな手がそれぞれライザを抱きしめるように伸ばされた。家族四人で抱きあうような形に、ライザは胸がいっぱいになるのを感じた。
「荷物はこれだけか? まぁ、必要な物があれば向こうで買えばいいか。うちの母はすでに、子供たちの服やおもちゃをあれこれリストアップしていたぞ」
「あのね、実は家をまだ引き払っていないの。その、もしもリガロフ家の皆様に受け入れてもらえなかったら、帰る場所がなくなるのは困ると思って……」
もごもごとそう口にしたライザに、イグナートは分かっているとうなずいた。
「突然のことだったし、焦らせて申し訳なかったとあとから反省したよ。俺も、ここを引き払う必要はないと思ってるんだ。タマラさんたちにもまた会いに来たいし、子供たちの育った家を失くすことはしたくないから」
「うん、ありがとう」
イグナートの気遣いに感謝しながら、ライザは荷物を詰めたトランクを持つ。
家の前には、リガロフ家の大きな馬車が停まっていて、様子を見に来てくれたらしいタマラとジョレスもその立派さに目を見開いている。
「本当に、貴族なのねぇ……。こんな立派な馬車、初めて見たわ」
「辻馬車を乗り継ぐよりも、こちらの方が速いし子供たちの負担も少ないですから」
ぽかんと口を開けたままのタマラに笑いかけながら、イグナートが子供たちを馬車に乗せた。乗り物が大好きな双子は、目を輝かせて馬車の中を見回している。
「ライザと子供たちのこと、本当にお世話になりました。落ち着いたら、ぜひ遊びにいらしてください。子供たちも、きっと喜びます」
「えぇ、そうね。ライザちゃんも、元気でね。預かっている辞表は、わたしが出しておくわね。王都に行くときは声をかけるから、また会いましょう」
「はい、ぜひ」
隣人と固い握手を交わして、ライザも馬車に乗り込んだ。こんな立派な馬車に乗るのは、イグナートと最後に過ごした日、彼に送ってもらった時以来だ。